03 在宅血液透析Q&A
在宅血液透析Q&Aについてまとめています。
Q&A
- Q:在宅血液透析とは?
- HHD(Home Hemodialysis:在宅血液透析)は、医師の管理の下、患者様が自らの責任と自己管理に基づいて、住宅に設置した血液透析(HD)機器やその他の付属装置を動作させ、自らHDを行う治療法です。つまり、患者様ご自身が回路の組立て、生理食塩水で回路内洗浄(プライミング)・穿刺・透析中の状態管理・返血等全ての手技を自ら行うことになります。介助者が臨床工学技士、看護師、医師の資格を有する場合は患者様に代わって穿刺可能です。 HHDはPD(腹膜透析)と同じ在宅血液透析ですが、その透析方法は全く異なります。共に緩徐な透析となり、身体への負担が少ない点が共通しています。透析をPDより開始し、腹膜機能の低下と共にHD併用療法やHHDへ移行される患者様も多くいらっしゃいます。
- Q:HHDのメリットは?
- HHDには多くのメリットがあります。まず、決められた時間に通う施設透析とは違い、時間の確保がしやすいため、二日空きをなくした十分な透析が可能となります。透析中の血圧低下や、尿毒症症状(皮ふのかゆみ、全身の倦怠感、むくみ等)の改善が見込まれ、良好な体調を維持し、長生きすることが期待できます。次に、十分な透析が可能となることから、カリウムやリンをあまり気にする必要がなくなり、食事制限が大幅に緩和されます。そして、高血圧、高リン血症や貧血の改善に伴い薬を飲む量も減少します。最後に、通院が大幅に減少するため時間的・金銭的負担が減ります。透析スケジュールをご自身のライフスタイルに合わせて自由に設定することが可能なため、家族や友人と過ごす時間や仕事をする時間が確保できます。さらに、通院回数が減ることにより院内感染(肝炎、感染性腸炎、インフルエンザ等)のリスクも低くなります。
- Q:HHDの適応条件は?
- HHDは基本的に安全な治療方法です。しかし、万が一のことが発生した場合に、医療従事者が近くにいる施設血液透析よりも、リスクは当然高まります。そのため、以下のような条件を満たす必要があります。
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- トレーニングを受けて、その内容を理解し、自分で清潔に穿刺(自己穿刺)および透析準備・実施・終了ができる。
- 介助者(ご家族)の理解と協力が得られる。
- HHD可能な環境(スペースや給水設備等)が整っている。
- HHDの支障となる合併症がない(医師の判断によります)。
- 自分で管理できる力がある。
- 社会復帰する意欲とHHDを実施したいという強い意志がある。
- Q:どんな設備や工事が必要ですか?
- 患者様の環境に合わせた十分な準備と適切なアドバイスを行うため、事前準備としてご自宅を訪問させていただきます。どのような工事が必要か、本院医療スタッフと機器メーカーの担当者が、電気、給排水、機器の設置場所等につき詳細に精査します。必要なスペースとしては、HHDを行う場所を確保するために2畳程度、それに加えて物品保管用の2畳分程が必要です。給排水はHD専用の配管を備えることが望ましいですが、洗濯機用に使用されている水道や排水口を利用することにより、ほとんど費用がかからない場合もあります。電気は、60A(アンペア)以上に容量を増大させる必要がありますが、通常大きな工事は必要ありません。できればHHD機器専用のブレーカーがあると、停電の危機を回避することができるため有用です。透析患者監視装置は個人用透析装置を使用するため、透析液の自由な選択が可能です。RO装置(水処理装置)はクリニックより貸与します。水節約タイプ、小型タイプ、静音タイプ等ございますので、ご自身の希望にあったものを選択してください。賃貸マンションの場合でも、貸主や管理組合等との調整を事前に十分に行った上で、できるだけ改修を伴わない方法を選択することで、HHDを実施することが可能です。
- Q:HHDにかかるコストは?
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- 透析患者監視装置、RO装置(水処理装置):クリニックが貸与します。
- 医療費:施設透析と同じ仕組みで助成されます。
- 住居の改造費:2、3万円~(右表参照)
- 水道電気代:数千~2万円プラス(市区町村による)。
- HHDも健康保険適応となります。そのため、医療費は通院の時と同様に自己負担は無いか、年収に応じた一定額の自己負担(通常1~2万円/月)となります。ただし、自宅への透析設備を設置する上でかかる準備費用や、HHD開始後に発生する水道電気代は患者様の負担となります。
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透析設備の設置に関わる準備費用 給排水設備 数千~40万円程度 選択や環境により大幅に異なる 水圧を調整するポンプ・弁の設置 0~10万円 水圧の程度による 電源容量の増量 数千円程度 60A以上に アース付コンセント設置 数千~1万円程度 – 透析装置専用のブレーカー設置 1~2万円程度 任意 - これら以外では、水漏れ警報器等、ご自身が希望する機器を設置する場合は別途費用がかかります。HHD開始後の維持費は、水道電気代以外は通常かかることはありません。なお、HHD導入当初の機器の設置、部品の交換や撤去にかかる費用も通常は無料ですが、引っ越し等患者様のご都合により発生した新たな設置作業は、原則として患者様の移動費としてご負担いただくことになります。HHDを始めるには多少のお金がかかることは事実ですが、通院にかかっていた費用は大幅に削減することができます。また、HHDを行うことで、維持透析開始前の状態に近い仕事や生活を取り戻すことが可能になります。このメリットは大変大きいものです。
- Q:トレーニングにはどのくらい行いますか?
- HHDを始めるには十分な準備と訓練が必要です。訓練が不十分だと命の危険を伴うため、患者様が安全に行えるようになるまでしっかりと訓練を行います。本院はオリジナルのマニュアル等を使用し、可能な限り短い訓練期間でHHDに移行できるよう指導しています。訓練期間中は、週3回通院していただき、通院HDを受けながら訓練を進めることになります。週3回の通院訓練を3か月~半年間行うことが必要ですが、経過によってさらに訓練期間を要することもあります。
- Q:自己穿刺)は難しくありませんか?
- 自己穿刺トレーニングは難しく、他院ではHHDを断念したケースもあります。しかし本院では、ポータブル超音波診断装置を用いてわかりやすく慎重にトレーニングを進め、自己穿刺に対するストレス軽減を目指します。また、日々の清潔操作等の感染予防対策と共にボタンホール穿刺等あらゆる方法を勧めています。実際に、これまで本院にてHHD訓練を受けた患者様全員、自分で痛みの少ない穿刺ができるようになりました。自己穿刺が可能となれば訓練の半分が終了と考えていただいても過言ではありません。
- Q:自分で透析準備は可能でしょうか?
- 透析準備の中でも、特に回路の組立から回路内洗浄(プライミング)までを全て手動で行う場合は難しく、他院ではHHDを断念したケースがあります。しかし本院では、訓練時はもちろん、HHDにおいてもプライミングおよび返血操作が自動化された透析装置を使用します。回路を組上げた後、自動でプライミング工程に入るため、容易に、かつ十分にプライミングを行えます。自己穿刺と同様、これまでに本院にてHHD訓練を受けた患者様全員が、ミスのない回路の組立てや自動化されたプライミングができるようになっております。
- Q:介助者は必要ですか?
- 本院の訓練では、患者様がご自身の手によってHHDに関わる手技すべてを、お一人でできるように指導します。従って、介助者に同席してもらい、一緒に訓練を受け、HHDのすべてを把握してもらう必要はありません。しかしながら、安全確保のため必ずHHDの最中は、以下の5点の条件を満たす介助者の方の付き添いをお願いしています。
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- 01
- 患者様がHHDを行う事に十分同意している。
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- 02
- 治療中、常に患者様と同一住宅内の比較的近い場所にいて、ナースコール等緊急時に駆け付けることができる。
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- 03
- 患者様自身の対応が困難な程の急激な血圧低下時に、患者様に代わって、急速補液、透析液温度の低減、下肢挙上や緊急返血等の緊急対応ができる。
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- 04
- 出血時の圧迫止血、透析機器の緊急停止ができる。
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- 05
- 緊急や急変時に救急車の要請や医療機関への連絡ができる。
- Q:訓練終了後、すぐに始められますか?
- 訓練開始後、患者様が安全にHHDを行う事が可能と本院が判断した際に、ご自宅に機器メーカーの担当者と本院スタッフが機器を搬入しHHDを開始します。初回のHHDを実施する日は、患者様が滞りなくHDを開始・終了できることを確認するまで本院スタッフが付き添い、もしくはすぐに駆けつけられる場所で待機します。初回が問題なければ、2回目以降は、患者様と介助者の方のみでHHDを行っていただくことになります。
- Q:HHDの予定はどのように立てますか?
- HHDの予定は、訓練時に医師と患者様で相談し決定します。施設透析と異なり保険上の回数制限はありません。 本院では、尿毒素や水分の過剰な蓄積に伴う身体への負担が生じやすい二日空きをなくした、頻回の透析を行うことをお勧めしております。具体的には、週4~6回で、1回あたり3~6時間というスケジュールでHHDを行うパターンが一般的です(下記HDP参照)。 なお、十分なHDが常に行われていれば、機器の故障、体調不良やシャント(バスキュラーアクセス)トラブル等で透析ができない日が生じてもすぐには問題とはならず、翌日より再開できれば、臨時の外来維持HDをしないで済みます。
- HDP:Hemodialysis Product = 週あたりの透析量の指標 【HDP=透析時間×週あたりの透析回数の2乗 】 3時間の透析を週6回行うと HDP = 3×36 = 108となります。 HDPは70以上が推奨されています。
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透析時間 透析回数/週 HDP 4 3 36 4 4 64 3 5 75 3 6 108 3 7 147
- Q:施設でのHDはしなくも良いのですか?
- HHD開始後も月1~2回の本院外来維持HDが必要です。外来維持HDでは、定期的な採血、問診、診察、HHD記録の確認を行い、HHDの状況や現在の身体状況の把握を行います。また、胸部レントゲン検査等追加の検査を受けていただくこともあります。その検査を基に、HD条件や薬の変更、造血ホルモン剤等の投与を行います。なお、シャント(バスキュラーアクセス)トラブルや体調変化への対応、また、改善する場合が多いため可能性は低いものの、出血等に伴う貧血進行に対して造血ホルモン剤投与等のために、臨時で来院していただくこともあります。十分な透析量を確保いただけますと薬剤投与量は減量となることが多く認められます。また、外来維持HD時には、手技の訓練を再度受けることもできます。
- Q:トラブルが起きた時は?
- ご質問やご相談は、通常は本院外来受診時に伺っておりますが、緊急の場合やトラブル発生時はお電話でも対応いたします。本院では、365日24時間バックアップ電話体制がございますので、安心していつでもHHDを行うことができます。LINE(ライン)もしくはHangouts(ハングアウト)によるインターネットテレビ電話も活用しております。また、災害時用PHSも複数導入しています。HHDを開始すると、施設と自宅の両方で透析が可能なため、災害時に有利な可能性も考えられます。
- Q:具合が悪くなった場合の対応は?
- もし透析中具合が悪くなった場合は、速やかに治療を中止していただき、医療機関等に連絡を入れて下さい。ご自身で行うことが困難な場合は、介助者の方にお願いをしてください。また、緊急時対策として、透析患者監視装置のコールや携帯電話等を手元に備えておくことをお勧めします。
- Q:機械のメンテナンスは?
- 1~3か月に1回ほど機器メーカーの担当者もしくは本院スタッフが定期メンテナンスとしてお宅にお伺いします。もちろん定期のメンテナンス以外でも、故障や不具合が生じた際は修理にお伺いします。機器がすぐに修理できない場合は、修理の完了まで臨時の外来維持HDへ移行していただきます。
- Q:必要物品は配達されるのですか?
- はい。必要物品はすべて患者様のご自宅へ月1回を目安に定期的に配達いたします。
- Q:医療廃棄物の処理はどうするのですか?
- 医療廃棄物のうち、針は本院で廃棄しますので、外来受診時に持参して下さい。針以外のものは、お住まいの市区町村の回収ルールに合わせた処理を行っていただくことが原則となります。関東のほとんどの地域で新聞紙等を使って血液等の中身が見えない状態にすれば、一般家庭ゴミとして出すことが可能です。市区町村により回収をしてもらえない場合は、本院で廃棄を行いますので、針と一緒にお持ち下さい。
- Q:安全に行う上で必要なことは?
- HHDはゆっくり時間をかけて透析を行っていただくことで安全を確保しています。短時間に多くの除水を行うと、急な血圧の低下を招くため大変危険です。そのため、時間当たりの除水量(余分な水分を1時間で取り除く量(L/Hr))は少なくする必要があります。もし、普段よりも飲食の量が多くなりすぎた場合は、透析の回数や時間を増やすことで緩徐な除水を行ってください。また、HHDに慣れてくると、どうしても自己流のやり方に変わっていってしまうことがあります。原則として自己流は避け、必ず医師または医療スタッフから受けた指導内容を守って、透析を行って下さい。指導された方法以外でのやり方をする場合には必ず申告、もしくはご相談下さい。治療中の抜針事故は、大変危険な事故となります。本院ではニプロ社の協力を得て治療中における穿刺部からの血液漏れや、針抜けを検知し、報知するシステムである、漏液・抜針検知器「見針絆R 」設置も可能です。また、本院では装置の自動化を進め、人の行動や負担による医療事故を減らすために、HHD使用装置でも自動化(自動プライミング・自動返血)を行っています。