01 腹膜透析
近年、バック交換を無菌的に行ったり、夜間就眠中に自動で透析液の注廃液を行ったりする装置が開発されており、御高齢の方でも可能となっています。透析導入期に腹膜透析を選択することで、残存する腎機能が長期に温存できることが多数報告されています。但し、腹膜は長期の使用が推奨されないため、計画的・段階的に血液透析に移行する必要があります。しかし、腹膜透析実施の間はクリニックへの通院が月に1~2回で済むなどの社会復帰しやすいメリットもあり、この様なPDファーストも1つの選択枝として透析導入予定となってしまった患者様には必ずお話するようにしています。
対応地域
東京・神奈川・埼玉・千葉
現在、他県からも患者様がいらっしゃっています。
緊急時や機械メンテナンス等の対応時間を考慮すると、本院まで一般道で2時間以内に来られる地域の方が対象となります。
腹膜透析とは
腹膜透析(Peritoneal Dialysis:PD)は在宅で行う最も代表的な透析療法で、患者様ご自身のお腹に1回1.5~2Lの透析液を入れて、腹膜を通して体の中の老廃物を取り除く治療方法です。個人差はありますが、血液透析(HD)と比べ透析導入後も残っている腎機能(残存腎機能)を長く保つことができ、尿が出なくなる時期を遅らせたり、造血ホルモンの分泌等の生体機能を、HDよりも長く維持できる透析療法です。
腹膜透析のしくみ
体の中にある腹膜という半透膜を利用して血液浄化を行います。腹膜はお腹(腹腔)の中で臓器を覆っている薄い膜で、中にたくさんの毛細血管が網の目のように走っています。PDは図のように腹腔内に専用管(カテーテル)を埋め込み、このカテーテルを使用して透析液を入れます。4~6時間透析液を入れておくと、腹膜内の血管から血液中の老廃物や余分な水分、ミネラルが透析液へと移動します。最後に腹腔内に貯留した透析液を排出し、新しい液と交換します。PDはこの工程を毎日数回繰り返して、血液をきれいにします。
メリット
毎日連続して行う透析のため、体液や血圧の変動が少なく、身体への負担が施設HDに比べ軽いことが挙げられます。また、透析液の交換は、自宅はもちろんのこと、外出先でも実施可能であるため、自分自身でスケジュールが組みやすく、通院回数が少ないため社会復帰を容易にします。最後に、PDはHDに比べ、透析を始めた後でも腎機能が長く保たれるため、残っている排泄や分泌の機能を長く維持できることも大きなメリットです。
Q&A
- Q:PDにかかるコストは?
- 慢性腎不全と診断された患者様は、HDと同様PDでも同じ公的負担医療保険制度や医療費助成制度を受けることができます。PDで使用する装置は本院より貸与しますので、患者様の自己負担はありません。
- Q:始めるにはどのような準備が必要?
- PDを始めるには、お腹に透析液を入れるためのカテーテルという、シリコン製の柔らかい管を腹部に埋め込む手術が必要です。カテーテルの先端は直腸と膀胱の間にあるダグラス窩に位置し、お腹の右か左かどちらかの位置から外部に出ます(カテーテル挿入口:出口部)。計画的に実施可能な場合は、カテーテルの埋没と出口部の作成を2期に分けて段階的に行うSMAP法という方法もあります。入院期間は病院によって異なりますが1期が1~2週間、2期は数日~1週間程です。手術後本院にて、自己管理を行うための諸々の講習を受けます。自分の手で全てできるよう透析液バッグ交換の講習や、出口部の清潔を保ち感染症を防ぐため、出口部のケアと入浴(シャワー浴)時に使用する入浴パックの装着練習等を行います。その後、ご自宅に透析液が配達され、在宅でのPDが始まります。
- Q:透析液の交換の手順は難しいですか?
- 操作自体は難しくありません。繰り返し練習することでほとんどの人が覚えることができます。大切なことは感染症を起こさないように清潔操作によるバッグ交換を心がけることです。
- Q:バッグ交換はどこで行えますか?
- 清潔で静かで邪魔の入らない(小さい子供やペットが近くにいない)場所を確保できれば、家の中、職場、学校、車の中、旅先等どこでも交換できます。
- Q:痛みはありますか?
- 治療を開始し安定したら注排液にともなう痛みはありません。開始直後はお腹が張ったような感じや、肛門の近くでの違和感、液の出し入れの際の痛みを感じる患者様はいます。このような自覚症状は1ヵ月以内にほとんど消失します。当然、血液透析のように血管に針を刺すことはありませんので、その痛みも全くありません。
- Q:どのような生活パターンになりますか?
- 寝ている間に専用の装置(自動腹膜灌流装置)を使って自動的に行う方法(Automated Peritoneal Dialysis:APD)と、日中に数回(4~5回)、1.5~2Lの透析液バッグを交換する方法(Continuous Ambulatory Peritoneal Dialysis:CAPD)があります。APDの場合、日中は比較的自由にすごせます。CAPDは自分で透析液を交換しますが、ライフスタイルに合わせて交換時間を設定します
- Q:日常生活で注意することはなんですか?
- バッグ交換の際に不潔な操作をしたり、カテーテル出口部の手入れを怠ったりすると、腹膜炎やカテーテル周囲の感染症を起こすため、注意が必要です。また、透析液をお腹に貯留して生活することになりますので、過度にお腹を圧迫することは避けましょう。加えて、歩行等の毎日の運動を心がけましょう。
- Q:食事はどうなりますか?
-
塩分: 残存腎機能保持や高血圧予防のためにも保存期と同様に6~7g/日までの制限が望まれます。 カロリー: 低栄養にならないよう摂取不足に気をつけてください。 カリウム: 自由に多めに摂取できるのがPDの良い点です。 水分: 尿が長い間出るため水分制限は穏やかです。 蛋白質: 蛋白摂取量(g)=標準体重(kg)×1.0~1.2が推奨摂取量の目安となり、保存期より多い蛋白摂取が可能です。
- Q:お風呂に入ることはできますか?
- カテーテルや出口部が濡れないように入浴パックをお腹に張り付けて入浴します。出口部の状態がよく医師の許可があれば出口部をシャワーで洗うことができます。湯船につかる場合は浴場洗浄剤を使用し、できる限り一番風呂で入って下さい。入浴後は出口部の消毒を十分に行って下さい。
- Q:旅行はできますか?
- 透析液と必要な物品がそろえば基本的にはどこでも旅行することが可能です。透析液や必要物品を持参したり、あらかじめ旅行先に送付したりする等の対応も可能です。
- Q:PD外来では何を行いますか?
- PDでは、自宅で安心して安全に治療を続けるために、月1回の「PD外来」での通院が必須です。このとき、患者様の状態を確認し、患者様が自宅で疑問や不安に思っていることを相談し、次の外来までの間良好に治療を続けるためのアドバイスを行います。出口部の消毒や必要な注射、採血等の検査、必要に応じ内服薬の変更等も行います。
- Q:どのくらい続けることができますか?
- PDを長期に続けることで腹膜機能の低下がみられることがあります。残存腎機能(自尿)や腹膜機能が低下した場合、PDを週5日、HDを週1日、残り1日は休息日というPD+HD併用療法もあります。近年腹膜透析液は酸性液から中性液に変更されており、これに伴って腹膜機能が低下しにくくなっております。残存腎機能喪失時や腹膜機能低下時には5~8年を目安にPD+HD併用療法もしくは、HDへ移行していただく必要があります。食事量が比較的少ないご高齢の方の場合は、長期実施可能な場合もあります。
- Q:HDからPDに変更できますか?
- HD導入後もPDへ移行可能です。残存腎機能が喪失されている場合はPD+HD併用療法をお勧めいたします。
- Q:PD+HD併用療法はどのような意義があるのでしょうか?
- 透析効率の増加、貧血、栄養状態や腹膜機能の改善、体液量の安定(浮腫の改善)等が報告されています。
- Q:合併症が心配ですが、大丈夫でしょうか?
- PD特有の合併症は感染症(腹膜炎もしくは出口部感染)および被嚢性腹膜硬化症(EPS)です。感染症は日々の清潔操作、無菌接続装置の使用や1日1回の出口部消毒により予防できます。万一チューブを不潔にしてしまった際はチューブ交換しますので、必ずご来院下さい。 EPSは長期PD実施後に発症することがわかっており、腹膜機能や残存腎機能を把握し適切な時期にPD+HD併用療法もしくはHDへの移行により予防できます。近年腹膜透析液は酸性液から中性液に変更されており、これに伴いEPS発症頻度も低下しています。
- Q:必要物品は配達されるのですか?
- はい。必要物品はすべて患者様のご自宅へ月1回を目安に定期的に配達いたします。
- Q:医療廃棄物の処理はどうするの?
- 排液はトイレに流すことができます。排液バッグは、お住まいの市区町村の回収ルールに合わせた処理を行っていただくことが原則となります。通常、一般家庭ゴミとして出すことが可能です。
- Q:80歳の父が透析を始めますがPDは可能ですか?
- 患者さん自身が交換できない場合には本人に代わってどなたかが毎日バッグ交換をします。ご家族の協力が必要となりますが、訪問看護で交換の支援も可能です。また、小児からご高齢の方まで、どの年代でもPDを行うことができます。通院に関しては月に1~2回で済みますので付き添い等、ご家族の負担は少ないと思います。
- Q:糖尿病で視力が弱く手先がうまく動かないのですがPDは可能ですか?
- 操作は専用の装置を使用すれば可能です。視力障害や手先の不自由な方のために、バッグ交換時のチューブとの接続を自動的に行う装置があります。
- Q:心臓が悪いのですがPDは可能ですか?
- 血液を体外循環させずに時間をかけて透析を行い、急速な体液量の変化がないため血圧変動が少なく、心血管系に対する影響が少なく、PDは心血管系に合併症を持つ患者様には適していると言えます。
- Q:腎内科クリニック世田谷の状況を教えてください
- 本院は在宅血液透析(HHD)同様PDも推奨しております。PDは主にJMS社と提携しておりますが、希望があればバクスター等他の会社のシステムでも可能です。PDを希望される患者様には保存期からPDに関する指導を開始し、スムーズに導入できるよう努めています。通常PDはいつPD+HD併用療法もしくはHDに移行を要するかの診断も重要となります。本院では定期的に腹膜平衡試験(PET)を行い、JMS社のPDシミュレーションソフトではPD+HD併用療法患者様を含め腹膜機能等の解析ができ、PD実施内容の見直しも行います。その他中皮細胞診検査により、より正確な腹膜機能の診断も可能となっております。PD+HD併用療法へ移行後、本院での訓練後HHDへ移行(在宅血液透析継続)も推奨しております。