02 在宅血液透析
患者様が自らの責任と自己管理に基づいて、住宅に設置した血液透析機器やその他の付属装置を作動させて、自ら血液透析を行う治療法です。
(日本医工学治療学会第27回学術大会 ランチョンセミナー7
『在宅血液透析のすすめ』医療法人 坂井瑠実クリニック 坂井 瑠実先生より)
対応地域
東京・神奈川・埼玉・千葉
現在、他県からも患者様がいらっしゃっています。
緊急時や機械メンテナンス等の対応時間を考慮すると、本院まで一般道で2時間以内に来られる地域の方が対象となります。
在宅血液透析とは
在宅血液透析は、患者様及び介助者が、医療施設において十分な教育訓練を受けた上で、医療施設の指示に従って、1人に対して1台の透析機器を患者様の居宅に設置します。 この設置した透析機器を用いて患者様の居宅で行う治療法を血液透析治療といいます。穿刺は自己穿刺を条件としていますが、代行することができる人は、医師等の有資格者と定められています。
(在宅血液管理マニュアル、日本透析医会・在宅血液透析管理マニュアル作成委員会 監修 平成22年2月26日 より)
在宅血液透析の方法
透析量の指標にHDP(Hemodialysis Product)と呼ばれるものがあります。
1回の透析時間 × (週の透析回数×週の透析回数) で計算します。
- 標準透析
- 1回4〜5時間程度 ×(週3回)2 = 36〜45
HDPは70以上が望ましいとされており、本院でもHDP70以上を推奨しております。
【さまざまなスケジュールのHD療法】
-
- 長時間透析:1回6時間以上のHD
- 例)1回 6~7hr ×(週3日)2 = 54~63
-
- 深夜透析(オーバーナイト透析):夜間睡眠時に施行するHD
- 例)1回 6~8hr ×(週3日)2 = 54~72
-
- 隔日透析:回数を増やして2日空きをなくすHD
- 例)1回 4~5hr ×(週3.5日)2 = 49~61(2週で7日)
-
- 頻回透析:週5日以上のHD
- 例)1回 2〜 4hr ×(週5、6日)2 = 50〜144
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- 連日透析:連日のHD
- 例)1日 2~4hr ×(週7日)2 = 98~196
「フランスのある病院では40年近く週3回、1回8時間の透析をしています。HDPは72です。 フランス人の体格だとか色々な条件は日本とは違いますが、でもここのデータは移植に負けていません」
(Belding H. Scribner, Dimitrios G. Oreopoulos. The Hemodialysis Product(HDP): A Better Index of Dialysis Adequacy than Kt/V. Dialysis & Transplantation 2002 ; 31(1) : 13-15)
メリット
在宅治療は、単に入院や頻回通院の解消策にとどまらず、患者様のQOLを考えた場合、もっとも望ましい医療の姿といえるでしょう。特に血液透析治療は移植が成功しない限り終生続けなければならない治療であり、患者様が医療施設で過ごす時間の累積は膨大なものとなります。
在宅血液透析は、特に生命予後が良いとされる頻回、または長時間透析を、医療施設の事情に左右されず自分の生活スタイルに合わせて実施することができるという利点があり、患者様のQOLを考えた場合、非常にメリットの大きい治療法といえるのです。
(在宅血液管理マニュアル、日本透析医会・在宅血液透析管理マニュアル作成委員会 監修 平成22年2月26日 より)
【在宅血液透析のデメリット】
-
- 01
- 睡眠時間を使うなどの工夫を行わないかぎり、時間や回数の拘束は解消しない。
-
- 02
- HHDの専用機器がないため、操作性が悪く、準備や回収に時間がかかる。
-
- 03
- 自己負担が多くなる。(水道料金、電気料金)
-
- 04
- 各物品の配送量、保管量、廃棄物の量などが多くなり、一括配送が難しい。
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- 05
- 食事が自由で肥満傾向になり、高脂血症の薬を必要とする患者もいる。
-
- 06
- 夏は汗をかきすぎて、水分の補給を十分しなければ脱水になることもある。
-
- 07
- 透析後P低下をきたすことがあるので、Pの補給が必要なことがある。
【在宅血液透析のメリット】
-
- 01
- 血圧が正常化する。栄養状態が良い。
-
- 02
- たんぱく質の摂取は制限をせず、家族と同じものを食べることができる。
-
- 03
- 薬は少量の活性型VD3以外ほとんどいらない。
-
- 04
- 透析不足による不快な症状はない。
-
- 05
- よく眠れる、知的能力がアップする。
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- 06
- 十分な治療時間が容易になる。
-
- 07
- 通院が減り充実した生活が送れる。また、インフルエンザなどの院内感染のリスクが減る。長時間透析の実施が容易になる。
(臨床透析2013Vol.29 No.5 HD療法の多様化:透析スケジュールの見直し (5)連日透析(在宅血液透析)芦屋坂井瑠実クリニック 坂井瑠実 より)
在宅血液透析研究会より、漫画冊子「在宅血液透析のススメ」が発行されました。
下記リンク先記事内の画像をクリックすると閲覧することができます。
第88回 元気で長生き講座【2019年8月号】
慢性透析療法の現況
・施設数 4,264施設(26施設増、0.6%増)
・慢性維持透析患者 314,180人(4,173人増)
施設透析: | 304,474人(96.9%) |
内訳: | 昼間/263,109人(83.7%) 夜間/41,365人(13.2%) |
在宅血液: | 461人(0.1%) |
腹膜透析: | 9,245人(2.9%) |
わが国の慢性透析療法の現況
(2013年12月31日現在)日本透析医学会統計調査より
在宅血液透析患者数の推移
日本透析医学会 統計調査委員会データより
- 在宅血液透析患者数
- 【全国】
- 埼玉県 74人
- 兵庫県 58人
- 東京都 51人
- 愛知県 44人
- 大阪府 37人
- 滋賀県 28人
- 神奈川県 25人 …
わが国の慢性透析療法の現況(2013年12月31日現在)日本透析医学会統計調査より
- 透析回数・時間(2009.12.末)
-
透析回数(回/週) 1回 304,474人(96.9%) 2回 昼間/263,109人(83.7%)
夜間/41,365人(13.2%)3回 95.5 % 4回以上 0.2 % -
透析時間 4時間未満 17.6 % 4時間~ 69.8 % 4.5時間~ 6.3 % 5時間~ 5.7 % 5.5時間~ 0.7 %
(社)日本透析医学会「わが国の慢性透析療法の現況」より
- 現状の透析は週3回4時間(4時間未満を含む)が90%
- 週3回4時間(4時間未満を含む)では
多くの透析患者は透析の絶対量が不足している! 治療方法で
– 血流の増加
– ダイアライザーの選択
– HDF(on-line)
など工夫しても時間や回数を増やす以外難しい - 循環器合併症患者は血圧低下を起こさないためにゆっくり時間をかけて透析をする必要がある
日本医工学治療学会第27回学術大会 ランチョンセミナー7『在宅血液透析のすすめ』医療法人 坂井瑠実クリニック 坂井 瑠実先生より
- 透析患者様に現れる症状
- 高血圧
貧血
意欲低下
集中力低下
皮膚の色素沈着
痒み - 骨・関節の痛み
ピクツキ
ムズムズ脚症候群
四肢の不随意運動
発汗異常
胃腸の運動障害 - 口腔乾燥
味覚異常
食欲低下
口臭
不眠
…etc
これらはどれも,透析不足から起こってくる透析の合併症は透析不足による合併症か透析のやり方によるものである
日本医工学治療学会第27回学術大会 ランチョンセミナー7『在宅血液透析のすすめ』医療法人 坂井瑠実クリニック 坂井 瑠実先生より
施設透析での限界
・長時間や頻回透析が良いとわかっていても施設での治療時間や治療回数を増やすことは難しい。
・送迎サービスや3クール行っている施設では、長時間透析は難しく限界がある。
十分な透析を行おうと思えば、在宅血液透析(HHD)が選ばれることは必然である。
渡邊ほか:在宅(家庭)血液透析についての提言,透析会誌31(5):959~965,1998より一部改変引用
在宅血液透析をはじめるには?
【在宅血液透析の適応】
誰にでもできる治療法ではないため、以下のような基準を参考に導入する。
-
- 01
- 本人の強い希望があること。
-
- 02
- 介助者が確保され、同意していること。
-
- 03
- 介助者以外の家族も協力的であること。
-
- 04
- 教育訓練を受けることができること。
-
- 05
- 教育訓練の内容を習得する能力があること。
-
- 06
- 安定した維持透析が実施されていること。
-
- 07
- 在宅血液透析実施の上で、支障となるような合併症がないこと。
-
- 08
- 年齢は16~60歳程度が望ましい
-
- 09
- 社会復帰の意思があること。
-
- 10
- 透析を実施する部屋や材料の保管場所が家庭内に確保できること。
- 本院の約束事
- 透析中に何かあれば直ちに終了する。
- 都合が悪ければ施設で透析をする。
- 2日空きを作らない
- 無理な透析(無理な除水)をしない。
- できるだけ長い時間透析をする。
- 週3回・4~5時間の透析なら勧めない。
- 負担のかからない透析をする。
- 翌日に影響がないような透析を行う。
HHDをはじめるまでの過程 | ||
(患者・家族)紹介状 | 外来受診・各部面接 |
・担当医 ・担当看護師 ・担当臨床工学技士 |
(患者宅) | 家庭の下見訪問 |
・水道圧、水質 ・電気容量 ・家庭状況、その他 ・看護師及び臨床工学技士 訪問 |
・結果を連絡 | 判定 |
・在宅透析の受け入れについて決定する。 |
(患者・介助者) | 在宅透析導入教育 |
・約3週間の教育:プログラムを受講者に合わせて計画 ・透析装置の設置 ・透析材料の配送 |
・結果を連絡 | 在宅透析移行判定 |
・在宅透析開始の可否を決定する |
在宅透析移行 |
在宅血液透析の訓練について
-
訓練内容 ステップ1
準備から透析中操作や記録- 前準備(セット・プライミング、ガスパージ)
- 接続操作
- 透析中操作(バイタルチェック)
- 透析中の警報の対処法
- 機械操作(透析装置全般)
- 清潔操作指導
- 記録用紙記載方法
(ボタンホール作成開始・スタッフ穿刺)
ステップ2
自己穿刺や血液回収・終了操作- 穿刺指導
- 回収操作(返血、抜針)
- 医療廃棄物の取り扱い
- 医療廃棄物破棄手順
ステップ3
個室透析での仮装在宅血液透析- 機械操作(個人用透析装置・RO装置)
- 透析装置洗浄操作
- 物品管理説明
- 最終確認
- 介助者への指導(フラッシング・緊急時回収方法)
- トラブルシューティング
在宅血液透析 治療以外について
- 在宅血液透析の管理
- 血液透析の指示
- ・在宅血液透析に用いる透析器の種類、透析液の種類、洗浄・充填に用いる生理食塩液量、抗凝固薬の種類と用量、穿刺針の種類、および透析時間、血流量、透析液流量などは、経験豊富な医師が指示書を作成し、これに従って血液透析を行う。透析器や薬剤、材料はこの指示書に従って、発注および配送が行われる。
- ・患者様が透析方法の変更を希望する場合は担当医と相談して、新たな指示書を発行してもらった後に、変更を実施する必要がある。
在宅血液管理マニュアル、日本透析医会・在宅血液透析管理マニュアル作成委員会 監修 平成22年2月26日 より
在宅血液管理マニュアル、日本透析医会・在宅血液透析管理マニュアル作成委員会 監修 平成22年2月26日 より
【HHD用物品宅配フロー】
※参考例
- クリニック
- ・自宅の在庫を確認をして必要数量を施設所定の注文用紙に記入。
- ・毎月、受診時に注文用紙を持参。
- 代理店
- ・透析液、医材料等を準備。
- ※代理店または宅配専門業者が対応
- 自宅
- ・宅配日に、約1ヶ月分の必要物品を納品。
- ※宅配後、再宅配の必要がある場合は施設へ連絡
【緊急時オンコール体制及びメンテナンス】
患者からの緊急連絡の際は、装置メーカーは施設からの連絡の上、修理訪問。 状況により、直接患者宅に連絡の上、訪問する場合もあります。
- 機器の日常点検
- 定期点検以外の日常点検(使用前・使用中・使用後点検等)は、患者様自身にて実施し、異常時には管理施設の臨床工学技士に連絡し対応する。安全性が確認されるまで在宅での透析は行わない。例えば、一定期間以上透析装置を使用しない状況が生じた場合には消毒及び点検が必要となる。透析装置に関するささいな変調も管理施設へ連絡する。
【HHD廃棄物処理】
現在、廃棄物処理法上は、在宅医療廃棄物は「一般廃棄物」
廃棄物処理に関しては、各自治体と相談しながら処理方法(病院への持ち込み処理や業者依頼等)を構築した上で、患者様に管理施設の指示に沿って適切に処理する必要がある。
在宅透析の設置について
【HHD設備工事】
- ①給排水工事
- RO装置への給水ライン、透析排水を流す排水ラインの工事
- ⇒ 上水道、井戸水と使用状況により工事内容は異なってきます。
- ②電気工事
- 3Pプラグで3~4口で、単独ブレーカーで新設
- ⇒ 居住環境により電気容量の関係上、送電線から工事を必要とする場合もあります。
- ③HHD専用部屋、物品保管庫
- 装置や物品を収納する場合
- ⇒ 物品の保管やプライバシーを考慮
概算費用 : 約10~15万円(税込)(①+②)
※費用は工事内容によって差があります。工事依頼する業者、担当スタッフを交えてご相談下さい。
【間取り、スペース】
- 1)血液透析実施場所
- 6畳間以上が必要
(各機器、配管、電源ケーブル、透析に必要な諸物品などで最低でもこのスペースが必要)
- 2)物品備蓄、保管場所(物置)
- ダイアライザ、血液回路、透析液など最低でも2週間分の備蓄が必要であることから4.5畳のスペースが望ましい(医療廃棄物、透析液の空きポリ缶なども含む)
- 3)水漏れ対策
- 透析機器は水を使用するため多年の使用で部品、継ぎ手などから水が漏れること、また、プライミング、回収時に床などにこぼすことが多い。機器の四方約1mにビニールシートを敷き詰めることが最適と考える。
臨床透析2007Vol.23 No.9 臨床工学技士による在宅血液透析機器の支援神奈川県立汐見台病院診療技術部・臨床工学科 一部引用
【腎内科クリニック世田谷 在宅血液透析設備・実例①】
【腎内科クリニック世田谷 在宅血液透析設備・実例②】
【患者様の自己負担例(電気・水道代)】
概算自己負担額
光熱費:約1万~2万円/月 水道費:約1.5万円/2ヶ月
地方自治体によっては、在宅血液透析患者への助成もあると聞いておりますので、各自治体の担当窓口に確認をした方がよいと思います。
体験談集 私の在宅血液透析 在宅血液透析の実際 より