第147回 元気で長生き講座【2024年12月号】
~本院でも実施中の長生きが期待出来る腹膜透析(PD)+血液透析(HD)併用療法の有用性~
腹膜透析(Peritoneal Dialysis:PD)+血液透析(Hemodialysis:HD)併用療法の有用性を示唆する論文をご紹介します。
PD+HD併用療法の多くは、PDを開始した患者の透析効率と除水を含む効率の不足を補うために行われています。ひたち腎臓病・生活習慣病クリニックたんぽぽ院長植田敦志先生らは、透析センターでPD単独療法を受けていた24名と、透析導入時にPD+HD併用療法を開始した10名を比較した結果を2023年に報告1)しています。目的は、透析導入時にPD+HD併用療法を開始した場合の、PD継続率と残存腎機能の双方に対する影響を明らかにすることでした。在宅透析療法であるPD療法の継続率、残存腎機能としての尿量とクレアチニンクリアランスが評価されました。5年間の観察期間中のPD継続率は、PD単独療法を継続する患者よりも透析導入時にPD+HD併用療法を開始した患者の方がはるかに良好でした。即ち、在宅透析療法のPDを長く継続するには、透析導入時の早期からのPD+HD併用療法実施が望ましいことが示唆されます。透析導入から 24 か月後までの間に、尿量中央値は PD単独の場合1500 から 800mL/日、併用療法の場合1600から 1480mL/日に変化し、クレアチンクリアランス値は、PD単独の場合7.0から 2.0 mL/min、併用療法の場合6.0から 3.0mL/min に低下しており、驚くべきことにPD単独療法よりも早期に併用療法を開始した患者の方が残存腎機能は保持されていました。選択バイアスなど、いくつかの交絡因子の可能性を排除することはできませんが、この研究は、PDの継続性と残存腎機能に対する早期の透析導入時より開始するPD+HD併用療法の利点を示唆しています。第88回 元気で長生き講座【2019年8月号】にて紹介した通り、植田先生はさらに、PD単独療法では生命予後不良と関連する低アルブミン(Alb)血症を生じるのに対し、透析導入時より開始するPD+HD併用療法においては、週3回の維持HD患者と同様Alb値が保たれることを報告しています。以上より、本院においても、はからずも末期腎不全に至った患者様に対し、先ずは医療経済上最も優れているとされている腎移植ご希望の患者様は、腎移植で実績のある東京女子医科大学病院などの大学病院をご紹介し、透析療法を開始する場合、PDとHDの選択枝がありますが、第123回 元気で長生き講座【2022年10月号】にて紹介した通り、多くの利点があり認知機能の低下予防効果も期待出来、在宅透析療法のPDをご選択される場合にはPD+HD併用療法を推奨しております。
また、東京慈恵会医科大学付属病院腎臓・高血圧内科の丸山之雄先生の報告2)によると、PD単独から併用療法に切り替えた後、体重、血圧、血清Cr(クレアチニン)が低下し、ヘモグロビン値(Hb)が上昇したことから、透析効率の改善と体液量の是正(浮腫の改善)が示唆されました。さらに、腹膜平衡試験(Peritoneal Equilibration Test:PET)※で測定され、被嚢性腹膜硬化症(Encapsulating Peritoneal Sclerosis:EPS)の独立した危険因子であることが知られている透析液中クレアチニン濃度(D)と血液中クレアチニン濃度(P)の比(D/P Cr)が減少したことから、腹膜機能の改善が示唆されました。PD単独療法では毎日腹膜が使用されるのに対し、PD+HD併用療法では少なくともHD実施日には腹膜の休息日があることとの関係が考えられます。いくつかの研究では、PD+HD併用療法患者の生存率はPD単独療法またはHD患者と同等かそれ以上であることがわかっており最も重要な生命予後の観点からもPD+HD併用療法の臨床的利点が認められています。
※腹膜平衡試験(PET)とは
PD患者様特有の検査であるPETは、腹膜機能を見る検査で本院でも定期的に実施しています。 腹膜透析液2リットルを4時間貯留し、透析液に蛋白(タンパク)質が分解・代謝されてできた小分子量の老廃物クレアチニンとブドウ糖が血中からどのくらい移行したか透析液中クレアチニン濃度(D)と血液中クレアチニン濃度(P)の比(D/P Cr)、および透析液中ブドウ糖濃度(D)とその初期濃度(D0)の比(D/D0 Glu)を測定し、前者で小分子物質の除去効率、後者で除水効率を評価します。PETの結果を標準曲線にプロットすることによって透過性の高い順に「High(ハイ)」「High Average(ハイアベレージ)」「Low Average(ローアベレージ)」「Low(ロー)」の4つのカテゴリーに分類されます。腹膜透過性(D/P Cr)が経時的に上昇し、長期間(12か月以上)「High」が続く場合は腹膜が劣化し腹膜透過性の亢進や除水性能が低下している可能性があり、残存腎機能や合併症の有無などと合わせて総合的に判断し、血液透析(HD)への移行やPD処方の変更を検討します。
第127回 元気で長生き講座【2023年3月号】にて紹介した通り、PD+HD併用療法は通常週5~6日のPDに週1回の施設HDを併用しますが、週1回のHDを本院での8時間のオーバーナイト透析(深夜透析)にて行い、完全フルタイム勤務を実現されている就労者の方もいらして、2022年11月に開催された国内PD関連の最大の学会である日本腹膜透析医学会学術集会・総会にて本院小山看護師が報告3)しております。PD単独療法では長期透析歴透析患者様で生じうる合併症の透析アミロイドーシス(DRA)の原因となる中分子量尿毒素β2マイクログロブリン(β2-MG)除去が行われにくく、本院でのPD+HD併用療法におけるHDはDRA発症抑制が期待出来るHD療法であるオンラインHDF (On-line HDF)を主に行っております!
参考文献
1)Kei Nagai, Atsushi Ueda. Sustainability of peritoneal dialysis and renal function with proactive combination therapy. J Artif Organs. 2023 Dec;26(4):335-339. doi: 10.1007/s10047-022-01375-8.
2)Yukio Maruyama. Does Combined Therapy with Peritoneal Dialysis and Hemodialysis Improve Prognosis? Contrib Nephrol. 2018:196:64-70. doi: 10.1159/000485701.
3)小山 千代美, 渡邉 晶子, 菅沼 信也. CCPD+8 時間オーバーナイト(ON)On-line HDF 併用療法の 1 症例. 腎と透析95巻別冊 腹膜透析2023 P240-242,2023