第145回 元気で長生き講座【2024年10月号】
~感染症対策として、各種ワクチン接種もお勧めします~
新型コロナウイルスワクチンの予防接種が今月1日から開始され来年の3月31日まで行われます。予防接種の助成対象者は、
①満65歳以上の方
②満60歳~64歳で法定障害(心臓、腎臓、呼吸器障害、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)による免疫機能のいずれかの障害により身体障害者手帳1級をお持ちの方)のある方
です。①の方については行政より通知および予診票が既に届いているかと思います。②の方は各行政の保健所に自ら申し込みを行う必要がありますので、必ず行うようお願いいたします。近隣の市区町村の取り扱いは下記にリンクを記します。他行政区につきましては、お住まいのある市区町村にお問い合わせください。
なお、今季新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の予防接種に使われるワクチンは以下です。
<新型コロナウイルスワクチン>
〇メッセンジャーRNAワクチン
・コミナティ筋注シリンジ12歳以上用[ファイザー]
・ダイチロナ筋注[第一三共]
・スパイクバックス筋注[モデルナ]
・コスタイベ筋注用[MeijiSeika]※レプリコンワクチン
〇組換えコロナウイルスワクチン
・ヌバキソビッド筋注1mL[武田]
※レプリコンワクチンのベトナムで行われた臨床第1相、第2相、第3相の無作為比較対象試験結果が専門誌Nature Communicationsに発表されおり、第3相試験では、ワクチン接種群が約8,000人、プラセボ投与群が約8,000人にて接種後28日間迄の副反応は、ワクチン群とプラセボ群には差は見られませんでした。ワクチン群では5名、プラセボ群で16名も亡くなっていて、ワクチン群の死者5名のうち1名のみCOVID-19で死亡、プラセボ群では死者16人のうち過半数の9名がCOVID-19によるもので、プラセボ群ではCOVID-19で亡くなった人がワクチン群よりずっと多く、このワクチンのCOVID-19重症化阻止効果が高いことに起因する結果と考えられます。それ以外の方はその他のCOVID-19以外の病気等で亡くなったと思われます。以上、被験者数が約8千人の臨床第三相試験の結果において、レプリコンワクチンに特に問題は見られていません1)。厚生労働省の専門家部会は、日本国内企業のMeiji Seikaファルマが開発したレプリコンワクチンの製造販売の承認を了承しました。新型コロナウイルスをきっかけに、メッセンジャーRNAワクチンが大きな注目を集めましたが、今後も技術の進歩は続いていきそうですね。
本院では今までと同じくファイザー社のコミナティを採用してまいります。順次接種を行ってまいりますので、届きましたら予診票のご提出をお願いいたします。上記公的助成のない方の場合、接種費用は15,300円となります。新型コロナワクチンの全額公費による接種は令和6年(2024年)3月31日で終了しましたが、COVID-19による罹患、重症化、死亡の抑制を目的として定期接種継続をお勧めします。
日本透析医学会の直近の「わが国の慢性透析療法の現況」2)によれば、透析患者死亡原因の第1位は以前1位であった「心不全」ではなく昨今増加している「感染症」となっており、中井らによる「2022 年末慢性透析患者数“減少”の背景を分析する」3)によると、2022年末のわが国の透析患者総数が初めて減少した背景を全国データにて、性・年齢別に有病率(透析患者数/人口10万人)、罹患率(年間透析導入数/人口10万人年),死亡率(年間死亡数/年間平均患者数)を比較し、死因別死亡数推移も検討した結果、増加基調にあった65歳以上の有病率は2020年以降減少し、罹患率は終始減少基調で、減少基調であった死亡率は2020年以降全年齢で増大し、2020年以降、感染症死亡数、COVID‒19肺炎死亡数が急増し、2022年末透析患者数減少には,2020年以降のCOVID‒19肺炎死亡数増加が最も影響したと考えられることを報告しています。COVID‒19を含む感染症予防には日頃よりお勧めしております「しっかり食べて動いてしっかり透析」や手洗い、マスクや換気等の基本的感染症対策に加え、ワクチン接種も有効です。
帝京短期大学の谷口らによる「透析患者における新型コロナウイルスワクチン接種重症化予防効果」4)では、第4~第7波でCOVID-19に罹患した男性113人、女性50人(163人)に対する調査を行った結果、全施設(1038人)における2022年6月1日時点で3回ワクチン接種を行っていた率の平均は86.7%で、ワクチン接種回数と致死率を比較した結果では、ワクチン未接種の致死率は12.5%、一方1〜2回接種では6%、3回は1.5%、4回は0%でした。したがって、ワクチン接種は全世代の死亡を抑制し、COVID-19による罹患、重症化、死亡を抑制する効果が示されています。
日本透析医会作成の「透析施設における標準的な透析操作と感染予防に関するガイドライン(六訂版)」5)に、透析患者に対して接種が推奨される各種ワクチンが記載されています。
1)すべての透析患者は,透析導入前にHBs抗原・HBs抗体の測定を行うことを推奨する.
2)HBs抗体陰性者に対して,3回のB型肝炎ワクチン接種を行うことを推奨する.
3)上記のB型肝炎ワクチン接種後,十分な免疫反応がない者に対しては,3回の追加接種を行うことを推奨する.
4)HBs抗体価が10mIU/mL未満に低下した場合,追加で1回のB型肝炎ワクチン接種を行うことを提案する.
5)すべての透析患者は,肺炎球菌ワクチン接種を行うことを提案する.
6)すべての透析患者は,インフルエンザワクチン接種を行うことを推奨する.
7)50歳以上の透析患者は,帯状疱疹ワクチン接種を行うことを提案する.
8)透析患者は,麻疹ワクチンの接種歴や麻疹の罹患歴を確認し,必要があれば接種を行うことを提案する.
9)透析患者は,風疹ワクチンの接種歴や風疹の罹患歴を確認し,必要があれば接種を行うことを提案する.
10)透析患者に新型コロナワクチン接種を行うことを推奨する.
ワクチン接種の重要性と共に第135回元気で長生き講座【2023年11月号】6)に記載しております通り上記ワクチンは全て本院にて接種可能で、年齢により公的助成が得られるワクチンもございますのでお住まいのある市区町村にご確認頂くか、未接種のワクチン等がございましたら、本院スタッフ迄ご相談・お申し込み下さい。
参考文献・記事
1)Nhân Thị Hồ, Steven G. Hughes, Van Thanh Ta, et al. Safety,immunogenicity and efficacy of the self-amplifying mRNA ARCT-154 COVID-19 vaccine:pooled phase1, 2, 3a and 3b randomized,controlled trials. Nature Communications.15(4081),2024. DOI: 10.1038/s41467-024-47905-1
2)花房 規男, 阿部雅紀, 常喜信彦, 他.わが国の慢性透析療法の現況 (2022年12月31日現在).日本透析医学会誌56(12): 473-536,
3)中井 滋, 菊地 勘, 若井 建志, 他. 2022 年末慢性透析患者数“減少”の背景を分析する. 日本透析医学会雑誌57(2):51~67,
4)谷口 弘美, 亀山 伸吉, 小野崎 彰, 他. 透析患者における新型コロナウイルスワクチン接種重症化予防効果. 帝京短期大学 紀要 No.24:145-152, 2023.
5)日本透析医会「透析施設における標準的な透析操作と感染予防に関するガイドライン」改訂に向けたワーキンググループ. 透析施設における標準的な透析操作と感染予防に関するガイドライン(六訂版). 2023.
6)腎内科クリニック世田谷 第135回元気で長生き講座【2023年11月号】