人工透析・糖尿病専門外来 千歳烏山駅北口

腎内科クリニック世田谷
〒157-0062 東京都世田谷区南烏山4-21-14

菅沼院長の元気で長生き講座
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第144回 元気で長生き講座【2024年9月号】

菅沼院長の元気で長生き講座

 

~認知症リスクを減少させるためのより良い透析療法を含む具体的な行動と新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策継続をお勧めします~

 

国際的に信頼されている5種類の総合医学雑誌の世界五大医学雑誌(世界五大医学ジャーナル)の一つである『The Lancet』に掲載されたLancet認知症委員会による認知症についての報告にて、認知症を招く恐れのある要素の内、修正可能なリスク因子として、2020年版では、教育の不足/頭部外傷/身体活動の欠如/喫煙/過度の飲酒/高血圧/肥満/糖尿病/聴覚喪失/うつ病/社会的接触の欠如/大気汚染の12因子が報告されていましたが、本年の2024年版1にて新たに視力低下と高LDLコレステロール血症の2つが追加され、リスク因子は計14個になりました。この14のリスク因子を修正することで、認知症患者のほぼ半数を予防または遅延させる可能性があるとのことです。本人だけで行えるものではなく、行政レベルの改善も必要ではありますが、なるべく早めに行動を開始すべきと考えられます。また、各人が抱えるリスク因子は一つとは限らないため、複数の因子に対して行う必要があります。

 

★生涯を通じて認知症リスクを減少させるための具体的な14の行動2

  1. ①教育の不足:すべての人に質の高い教育を提供し、認知機能を刺激する活動を奨励する。
  2. ②難聴:聴力障害のある人に補聴器の利用を可能にし、また聴力障害を減少させるために有害な騒音曝露を減少させる。
  3. ③うつ病:うつ病を効果的に治療する。
  4. ④頭部外傷:スポーツや自転車でヘルメットや頭部保護具の着用を奨励する。
  5. ⑤身体活動の欠如:スポーツや運動を推奨する。
  6. ⑥喫煙:教育、価格管理、公共の場での喫煙防止を通じて喫煙を減少させる。
  7. ⑦高血圧:高血圧を予防または軽減し、40歳から収縮期血圧を130 mmHg以下に維持する。
  8. ⑧高LDLコレステロール血症:中年期から検診を行い治療する。
  9. ⑨⑩肥満、糖尿病:健康的な体重を維持し、肥満があれば早期に治療する(糖尿病の予防にも役立つ)。
  10. ⑪過度の飲酒:価格管理と過剰消費のリスクの理解を通してアルコール消費を減少させる。
  11. ⑫社会的接触の欠如:高齢者に優しいサポート環境と住居の提供。他者との共同生活を促進することにより社会的孤立を減少させる。
  12. ⑬視力低下:すべての人に視力低下のスクリーニングと治療を利用可能にする。
  13. ⑭大気汚染:大気汚染への曝露を減少させる。

 

④に関し、本院でも運行しております送迎車を含む車両乗車時のシートベルト着用を法を遵守し忘れずに行いましょう。必要に応じ、②は耳鼻咽喉科、③⑪は心療内科や精神科、⑥は禁煙外来、⑩は本院にもございます糖尿病内科、⑬は眼科との病診連携も望まれます。紹介状の作成も致しますので、ご相談下さい。透析中に血圧が低下してしまう透析低血圧や⑦の動脈硬化症をもたらす高血圧に対しては、長時間透析がその改善に有用であり、長時間透析開始後に降圧薬(血圧降下薬)が減量もしくは中止出来る方が多くいらっしゃいます。長時間透析3や腹膜透析(PD)+血液透析(HD)(PDHD)併用療法4が認知症予防にも役立つ可能性があります。

 

⑨の肥満については、透析患者様においては、体重と身長から算出される肥満度を表す体格指数BMI(ボディマス指数;Body Mass Index25前後の軽度肥満の方の生命予後が最も良好であった「わが国の慢性透析療法の現況」2009年末の報告5)もありますので、中等度(BMI30)以上の肥満の方は炭水化物の多い食事摂取制限や運動により減量をお勧めします。BMI35以上の高度肥満の方におかれましては、胃を小さくする外科的療法(腹腔鏡下スリーブ状胃切除術)も2014年より保険適用となっており、専門医療機関をご紹介しますので、ご相談下さい。

 

今夏COVID-19の再流行が起こっています。最新の発生状況(新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の発生状況について【令和6年8月23日】6)にて気づいた点が一つあり、感染者数は前回の流行の時と比較し減少傾向ですが、入院数が増えている点です。透析患者様ら基礎疾患を有する方は重症化しやすく、入院を要する重症者が増えている可能性もあり予断を許さない状況かと存じます。医療記者岩永直子のニュースレター【2024年8月11日】7によると、COVID-19により認知機能障害が起こることが報告されています。京都第一赤十字病院総合内科部長の尾本先生へのインタビューでは、血液から有害物質が脳に入り込むのを防ぐバリアの血液脳関門(blood-brain barrier;BBB)があるのですが、BBBは様々な障害や脳症で破壊されることが知られており、COVID-19でも同様のことが起きるようです。さらに、新型コロナウイルスは腸管粘膜で長期間感染し続け、腸管からのトリプトファンの吸収が妨げられるようです。トリプトファンは脳内の神経伝達物質であるセロトニンができる前段階の物質であり、体内のセロトニンが欠乏するのではと考えられています。セロトニンが不足すると、抑うつ状態を引き起こし、認知機能の低下に結びつきます。

 

COVID-19は今までの経過を見ても今後も波を繰り返すと予測されます。予防にはやはりワクチン接種、鼻までマスクの着用、手洗いや換気です。感染した場合は、抗ウイルス薬(モルヌピラビル(ラゲブリオカプセル®8や自費診療となりますが安価なオセルタミビル(タミフル®9)の積極的投与はもとより、漢方薬の処方も保険診療で可能です。葛根湯(ツムラ漢方1)と小柴胡湯加桔梗石膏(ツムラ漢方109)を2週間内服することでCOVID-19にて解熱効果と呼吸不全の増悪抑制につながる報告10が東北大学からなされており、透析患者で有用と考えられた症例報告11もあり、抗ウイルス薬との併用も適宜本院でも行っております。

 

参考文献・記事

  1. 1)Livingston G, et al. Dementia prevention, intervention, and care: 2024 report of the Lancet standing Commission. Lancet. 2024 Jul 30:S0140-6736(24)01296-0.

  2. 2)下畑享良ブログ. 「エビデンスに基づいた認知症予防2024」を学ぼう!広めよう! 2024年8月6日記事

  3. 3)腎内科クリニック世田谷第126回元気で長生き講座【2023年2月号】 

  4. 4)腎内科クリニック世田谷第123回元気で長生き講座【2022年10月号】

  5. 5)日本透析医学会統計調査委員会:わが国の慢性透析療法の現況(2009年12月31日現在).日本透析医学会, 2010 

  6. 6)厚生労働省プレスリリース 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の発生状況について【令和6年8月30日】

  7. 7)医療記者岩永直子のニュースレター【2024年8月11日】

  8. 8)腎内科クリニック世田谷第116回元気で長生き講座【2022年3月号】

  9. 9)腎内科クリニック世田谷第102回元気で長生き講座【2020年11月号】

  10. 19)東北大学プレスリリース 新型コロナウイルス感染症の急性期症状に漢方薬【2022年11月28日】

11) 福原 慎也, 千福 貞博. 高リスクの新型コロナ患者に葛根湯合小柴胡湯加桔梗石膏が有用と考えられた1経験例.日本臨床内科医会会誌38巻1号 P41-3,2023