人工透析・糖尿病専門外来 千歳烏山駅北口

腎内科クリニック世田谷
〒157-0062 東京都世田谷区南烏山4-21-14

菅沼院長の元気で長生き講座
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第143回 元気で長生き講座【2024年8月号】

菅沼院長の元気で長生き講座

 

~長時間透析、運動と災害対策としてご自身のDW(ドライウエイト)等を記憶しておくことをお勧めします~

 

先月721日(日)、烏山区民センターにて恒例の腎内科クリニック世田谷患者友の会共催勉強会を開催しました。今回のゲスト講師は、福島県の援腎会すずきクリニック院長の鈴木一裕先生です。勉強会は2部構成とさせて頂き、演題名の前半は「元気で長生き~透析運動療法と新しい透析の考え方~」、後半は「透析施設の災害対策最前線」でした。

 

第1部:元気で長生き~透析運動療法と新しい透析の考え方~

 

すずきクリニックでは、①透析時間5時間以上 ②高血流QB300mL/min以上 ③前希釈on-lineHDF(オンラインHDF)の3つを推奨しており、これらを合わせてしっかり透析と呼んでいます。透析医療は高齢者医療となってきており、実に65歳以上の方が7割に及びます。導入患者数は頭打ちとなってきており、導入患者数を死亡者数が逆転しそうな状況にあります。従って透析クリニックが目指すべきは、亡くなる方を減らす透析を行うことと考えられます。透析患者様の亡くなる理由は、心血管疾患と感染症が全体の半数以上です。心疾患イベントを減らすには、透析液の清浄化、透析時間延長、透析量増加を行うことであり、感染症予防にはオンラインHDFが適用されます。またオンラインHDFは心臓病・糖尿病のない患者で予後良好、また新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を予防する効果があるが、血液透析(HD)をオンラインHDFに変えることによる生命予後への影響よりも、生命予後に対しては心疾患・糖尿病の有無の影響の方が大きいため、オンラインHDFの予後への効果は限定的です。文献(小川洋史:在宅血液透析の形態:現況と課題.人工臓器39巻1号:68-71,2010)から引用での2008年末の日本透析医学会統計調査結果による10年生存率37%、15年生存率24%、20年生存率17%に対しフランスのシャラ(Charra)博士による18時間の週21時間の長時間透析では10年生存率75%、15年生存率55%、20年生存率43%と極めて良好であり、長時間透析を行うことにより生存率は2倍以上になるため、オンラインHDFよりも長時間透析を行う方が生命予後を改善させます。しかし、高齢者では長い時間はかわいそうだからと透析時間を短く設定してしまう傾向があるが、高齢透析患者の予後が悪いのは透析不足の可能性があるため、活動性を落とさないことを確認しながら、できるだけ透析量を増やしていくことが重要です。

 

また、栄養不良は年齢とともに増加する傾向にあり、運動習慣も年齢が上がるにしたがって減少する傾向にあります。実際に透析患者様の送迎件数は年々増えており、通院時でさえ運動をしなくなってきています。高齢者は、身体的、精神心理的、社会的要因によりフレイル(健康と要介護状態の間)になりやく、フレイル対策としては、透析量増加により食欲を改善し体重減少を阻止すること、透析時間の延長により透析後の疲労感を改善するとともに活動量を増やすこと、そして運動療法により歩行速度を改善させ、筋力低下を防止できます。援腎会では様々な方法を用いて透析中の運動を推進しています。

 

しかし透析医療に対する患者の要望を聞くと、長生きしたいという項目が1位である一方、3位に透析時間を短くしてほしいという、相反する項目が入っています。この両者を満たすには、透析時間延長については十分な説明と併せて、透析時間を飽きさせない工夫が必要です。時間延長が苦にならないためには医療者による支援、工夫が必要です。さらに身の回りに相談できる人がいない人の数は、単独世代の割合の増加に伴い増えており、高齢者の孤独化が進んでいます。それには十分な透析と共に、チーム医療での介入が必要です。

 

第二部:透析施設の災害対策最前線

 

すずきクリニックは、福島県郡山市にあります。20113月に発生した東日本大震災では、郡山市は震度6弱であったものの、同じ震度であった福島市よりも建物の全壊、半壊数がはるかに多く、津波以外での地震による直接被害が大きかった場所です。大きな揺れが来た最中は何もすることができませんでした。揺れが収まった後、透析途中の患者は緊急離脱を行い、止血確認後解散としました。関連施設と連絡を取り状況を把握。電気・水道は一見使用可能なように見えました。そして、何とか患者に翌日の透析ができない旨を連絡しました。クリニックの被害は甚大で、エアコンの蓋が外れる、壁がずれ隙間が生じる、ほとんどの機器が落下、固定していたはずの透析機械室の逆浸透法精製水製造装置(RO装置)が移動、室内は暗く壁は避け粉塵が舞い、本棚と冷蔵庫が横転しブザーが鳴り響いていました。

 

翌日、福島第一原発にて水素爆発が発生。半径20km圏内に避難指示が出されました。その2日後に2回目、その翌日に3回目の水素爆発が起こり、何とか透析を再開でき軌道に乗り始めた矢先、放射能の恐怖を覚えました。原発周辺地域から避難してきた患者は、透析条件等が分からなかったため、問診や浮腫の状態を見て除水量を決めました。原発付近から一時的に避難してきた患者が多かったですが、翌透析日に来院しない患者も続発した為、来院されてから透析準備を行う方針に変更しました。その後原発は落ち着きましたが、住民の県外への非難、医療従事者の流出は続き、1年経っても放射線量の測定の日々でした。

 

東日本大震災を経験し、復旧には数か月かかること、ライフラインが回復するまでの対応を考えておくこと、建物の修理等を行うための費用を含めた長期間の作業になることから、中長期的な計画を立てておくことが必要と考えました。新たなる災害に向けて課題となるのが、以下の項目です。

 

1.透析用水・電源の確保

2.交通規制やガソリン確保への対応

3.患者様との通信手段の確保

4.患者情報の伝達

 

これらをいかに復旧させるか、スムーズに行うかがカギとなるため、援腎会では事業継続計画(BCPBusiness Continuity Plan)を策定しました。そしてただのマニュアルにならないよう見直しと改訂を行っています。また、震災後も新たに水害や感染症の蔓延、サイバー攻撃等の問題が加わってきたため、震災対策としてのBCPから様々な障害に対応できるBCPへと変えていっています。しかし、どんな障害にせよ、発生している最中や直後にできることは限られています。マニュアルに囚われることなく、医療者が必要と感じたことを実行することが何より大切であると締めくくられました。

 

以上の鈴木院長の素晴らしいご講演より、改めてより良い生命予後(長生き)を求めるのであれば、やはり週3回であれば一回6時間、週18時間以上の長時間透析実施が望ましいことが再認識できました。元気で長生きの為には日々の歩行を含む運動療法も望まれます。長時間透析の方が、時間あたりの除水量を減らすことが出来、透析中の血圧低下(透析低血圧)も少なく食事制限も緩和される為、元気に活動できることも考えられます。長時間透析により高血圧や高リン(P)血症改善が得られ、降圧剤やP吸着薬を少なく出来ることも期待出来ます。

 

鈴木院長は先週末郡山市で開催された第35回日本サイコネフロロジー学会大会長を務められ、参加して参りました。立派なすずきクリニックを見学させて頂き、補修されたアスファルトのひび割れ等が東日本大震災の凄まじさを表していました。鈴木先生は被災者でありながら60名もの避難患者の臨時透析をお受けになり、透析条件が不明でご苦労されておられ、やはり第54回元気で長生き講座(2016年5月号) にて記載させて頂きました通り、ご自身の1.DW(ドライウエイト:透析後目標体重・基準体重・乾燥体重・基礎体重)、2.グラフト(人工血管)ループの血流の方向(動脈側(脱血側)・静脈側(返血側)それぞれの正しい位置)、3.アレルギー・禁忌薬 の3点は災害対策として日頃より覚えておいて頂くことをお勧めします。お暑い中、ご参加頂きました多くの皆様、鈴木院長、千歳烏山までお越し頂き、誠に有り難うございました。