第142回 元気で長生き講座【2024年7月号】
~血液透析濾過(HDF)による肌の明度(皮膚の明度)改善効果が報告されており本院透析患者様における皮膚の明度も高値です~
はからずも末期腎不全に至った場合は体内の老廃物を取り除くために、腎移植を行わない場合は透析治療が必要です。主に腹膜透析(PD)と血液透析(HD)があり、本院は双方に対応しております。HDには、通常の血液透析(HD)と血液透析濾過(HDF)の二つの方法がありますが、HDFは皮膚の明度を改善する効果も期待出来ます。この治療法が注目される理由は、HDFが健康的な肌色を保つのに役立つとされる研究結果に基づいています1)。
透析患者様は以下の理由により、色素沈着しやすいとされています2)
・血流障害によるうっ血
・腎臓の機能(腎機能)低下に伴い、β2-ミクログロブリン(β2-MG)が
・血中に蓄積し、色素沈着や透析アミロイドーシスを引き起こす可能性がある
・慢性炎症: 慢性的な炎症反応がメラノサイトの活性化を促し、
・メラニン生成を刺激する
・貧血に対する鉄剤の過剰投与によるヘモジデリンの沈着が色素沈着を
・引き起こす
・かゆみを伴う皮膚病変と繰り返し掻き壊すことによる色素沈着
HDFは、HDに比べ中分子や大分子の老廃物を効率的に除去します。特にβ2-MGなどの色素沈着に関連する中分子量物質の除去に効果的と言われています。β2-MGは、人体の細胞が自然に産生する低分子量タンパク質で、主にリンパ球によって生成されます。そのため、感染症罹患などの理由により炎症反応がみられる際は血中濃度が高値になることが知られています。正常な状態では腎臓を通じて体外に排出されるため血中濃度は低く保たれますが、腎機能が低下すると血中に蓄積し、さまざまな健康問題を引き起こす可能性があります。その問題の一つとして皮膚の色素沈着があり、β2-MGは、透析患者において色素沈着やアミロイドーシスなどのリスクを高めるため、その除去が重要と考えられます。
HDFは、HDと比較してより多くの尿毒素や老廃物を除去できるため、皮膚の明度改善に効果的と考えられています。矢吹クリニックの小座間氏らの研究3)によると、HDFはHDに比べて肌の明度が保たれていたことが示されています。これはHDFがβ2-MGなどの色素沈着に関与する物質の除去にも効果的であるためと考えられます。
β2-MGの除去効率は透析条件によって大きく変わります。透析時間が長くなるほど、血液浄化器の膜面積が広い大膜面積ほど、そして血流量が多いほどβ2-MGの除去率は向上します。β2-MG値は生命予後と強く関連し、低値であるほど生命予後良好が報告4)されています。本院では在宅血液透析を含む長時間透析や頻回透析への移行により有意なβ2-MG値低下が得られていました。ダイアライザの旧機能分類においても、Ⅳ型・Ⅴ型・ヘモダイアフィルターとして使用される血液浄化器はβ2-MG除去率が高いとされています。また、血液浄化器の膜材質によっても除去効率に差があり、PAES膜、PEPA膜、PES膜、PS膜などが効果的です。この為、β2-MGの除去を最大化するためには、適切な血液浄化器の選択とともに、透析条件の最適化が推奨されます5)。柴田らはオンラインHDFにより、有意なβ2-MG値低下と同時にコニカミノルタ社製分光測色計(色彩色差計)「CR-400」を使用して臍部より上部1cmの部位の皮膚の明度を計2回測定した結果にて、有意な皮膚の明度の上昇を報告しています1)。0(ゼロ)が真っ黒、100が真っ白であり、その間の数値が皮膚の明度(L値)として測定され、高値ほど皮膚色が明るく白いことを示します。谷口らはβ2-MG値が低値である方がL値高値を報告しています。本院でも43名の外来維持血液透析患者様にご協力頂き同様にL値を評価させて頂きました結果、既報6)の皮膚の明度を示す平均L値62.5~66.5よりも68とL値は高値でした。本院では、HDF療法実施者が多いことや全国平均よりも透析量が多く、先月号の第141回「元気で長生き講座」にて報告しております通り血中β2MGの平均値が昨年末時点で25mg/Lと低値である点が良い結果をもたらしているものと考えられます。本院初の透析歴50年を達成された患者様は本院へ転医後、オフラインHDF⇒オンラインHDFへ変更し、「肌の色が白くなった」と言って頂け7)、大変嬉しかったです。透析歴が長くなると皮膚の明度の有意な低下が報告2)6)されており、色彩色差計「CR-400」による皮膚の明度測定を年1回目安に行って頂き、皮膚の明度低下があった場合には、透析条件の見直し等検討させて頂ければ幸いに存じます。
色素沈着を予防するには効果的な透析が必要であり、適切な透析によって毒素が除去され、皮膚の健康が保たれる可能性があります。また日焼けから肌を保護するために、日焼け止めの使用や紫外線を適切に保護する服を着用することや海水浴、登山、スキーや日光浴などの過剰な紫外線曝露は避けて頂くことも重要です。腎内科クリニック世田谷では今年5月21日より美容・再生医療外来を開設し、最新の美肌治療技術で肌治療にあたっております。例えば、メスを使用しないリフトアップ治療が可能な医療HIFU(ハイフ)「ウルトラセル ジィー」も、皮膚のタイトニングと肌質の改善をサポートします。
ホワイトニング(美白:Whitening)治療は
①美白効果が期待出来るトラネキサム酸等を含む化粧品
②内服薬:鉄利用を高める目的で内服頂いている患者様もいらっしゃいますが、シミの原因物質であるメラニンの合成を抑制し、さらに黒色メラニンを脱色する働きを持つビタミンC製剤シナール錠等
③エレクトロポレーションによるビタミンCやトラネキサム酸の経皮的ドラッグデリバリー
④日本人向けに開発された最新かつ人気のキュテラ社製ピコレーザー治療器「エンライトンSR」は、従来のナノ秒(Qスイッチ)レーザーよりも肌へのダメージが少ないピコ秒単位の短いパルスでレーザー照射を行い、皮膚の奥深くにある色素細胞にアクセスし、色素沈着の改善を図るピコトーニング
⑤ケミカルピーリング:BRA(アスコルビン酸・フィチン酸混合ピーリング剤)ピーリング
⑥グルタチオンの点滴を行う白玉点滴(美白点滴)
⑦血液透析患者様におかれましてはオンラインHDF
以上の全てが本院での美白効果が期待出来る治療として実施可能であり、ご興味のある美白治療がございましたら、本院スタッフ迄お申し出下さい。また、スキンケアにおいても、色彩色差計「CR-400」を使用することで、施術前後の皮膚の明度を数値で明確に示し、美白治療効果を客観的に評価することが可能です。これにより、治療の経過を追跡し、必要に応じて治療計画を調整できます。上記施術前後の「CR-400」による皮膚の明度測定により美白治療へのモチベーションが高まることも期待出来ますし、本院での皮膚の明度測定にて、どの療法が美白治療として効果があるのかを評価も出来ることでしょう。
HDFは透析患者の皮膚の明度を改善する有効な治療法であり、特にβ2-MG等の中分子や大分子の尿毒素を効率的に除去します。尿毒素をさらに効果的に除去するには、透析量の見直し、特に本院でも長時間透析にてβ2-MG値低下が確認出来ており透析時間を長くすることが推奨されます。したがって、HDFと共に透析量を検討することが望まれます。このアプローチにより、皮膚の健康も向上し、生活の質(QOL)が改善されることも期待されます。
治療法の選択には、医師やスタッフとの綿密な協力も必要であり、個々の状態に合わせた最適な治療計画を立てることが重要です。明るい皮膚色と共に明るい未来を皆様と目指して参りたいと存じます。
参考
1)M Shibata, K Nagai, K Usami, et al. , The quantitative evaluation of online haemodiafiltration effect on skin hyperpigmentation. Nephrology Dialysis Transplantation, P988-992, 2011. https://doi.org/10.1093/ndt/gfq479
2)柴田昌典, 太田匡宣, 青木隆成,.他. 維持透析患者の皮膚の色素沈着―第二報 皮膚の明度の低下と年齢, 透析期間, 基礎疾患との関連―. 日本透析医学会雑誌40巻7号, P589-594, 2007.
3)小座間りか, 鈴木則雄, 五十嵐洋行, 他. 透析患者の皮膚色調について. 日本透析医学会雑誌43巻, P486, 2010.
4)日本透析医学会統計調査委員会.図説 わが国の慢性透析療法の現況 2009 年 12 月 31 日現在.東京:日本透析医学会,P83, 2010
5)谷口信吉, 柴田昌典, 宇佐美一政. 維持透析患者の皮膚の色素沈着-皮膚の明度の定量的解析と尿毒症物質との関連-. Aesthetic Dermatology Vol.16, P95-101, 2006.
6)佐藤 了亮, 渡邊 早織, 土井 裕生, 他.宮城県腎不全研究会会誌40回 P136-138, 2012