第139回 元気で長生き講座【2024年4月号】
~本院お二人目の超長期透析歴50年達成の方がいらして、タンパク質等をしっかり食べてリン(P)管理は長時間透析やP低下薬内服をお勧めします~
先月のメールマガジンでもお知らせしましたが、令和6年3月(先月)超長期透析歴50年を迎えられた患者様がいらっしゃいます。本院ではお二人目の透析歴50年達成の方で長生きの理由として、ご本人は食べることを挙げていらっしゃいました。「教科書通りの方から居なくなった」とおっしゃっておられ、教科書通り食事制限をしすぎた方は栄養状態不良となりお亡くなりになったのではないかと推察いたします。カリウム(K)の多い食事については、第128回元気で長生き講座1)にて透析前K5~5.5mEq/Lを目標にKの多い食事摂取や透析量増加をお勧めしております。お一人目の方は2022年秋に透析歴50年の日を迎え、第124回元気で長生き講座2)にて本院でのオンラインHDF実施中皮膚が白くなったとおっしゃって頂けたことを紹介させて頂いております。第79回元気で長生き講座3)でも紹介しましたが、このお二人を含む本院の透析歴40年を越える長期透析患者様(2018年当時)はこれまでの新潟の信楽園病院の報告に比べ、有意に透析量の指標である標準化透析量(Kt/V)が多く、ヘモグロビン(Hb)値が高く貧血が軽度で、栄養状態が良い方は高値となることが多いアルブミン(Alb)値が有意に高値であったことを第24回日本HDF研究会学術集会・総会にて報告4)しています。先月新潟で開催された第14回日本腎臓リハビリテーション学会学術集会にて、信楽園病院に同院最長透析歴49年の方がいらっしゃるとの報告がございました。はからずも若くして透析導入となってしまった方におかれましては、是非超長期透析歴50年を目標にして欲しいと思います。
炭水化物や糖質等をよく食べた場合体重が増えますが、透析患者様においては肥満度の指標となる体格指数BMI(Body Mass Index=体重÷【身長(m)2】が高い方が長生きされていらっしゃいます。一般のBMIの基準値は22ですが、国内の透析患者様の場合は24~26と、22より高い値の方が生命予後良好で、逆にBMIが低いほど生命予後不良が報告されています。
栄養状態改善については長時間透析研究会会長の前田先生が深夜血液透析(HD:オーバーナイト透析)開始1年後に4~5%の体重増加が見られたが、BMI35以上の高度肥満の方はいなかったこと、同院での6時間の長時間透析患者様の生命予後良好を報告5)されています。
透析患者様は、栄養状態に関係なく、高リン(P)血症を患っていることがあります。P管理はしっかりと行うべきです。2012~2015年までの日本の透析施設におけるP管理ガイドライン遵守と、血液透析患者の死亡との関連を調査した研究6)では、施設での血清P濃度の目標範囲が日本の診療ガイドラインに準拠しているかどうかに応じて、次の4つのカテゴリー(P値を低めに厳しくコントロールする低ターゲットグループ、ガイドライン遵守グループ、ワイドターゲットグループ、緩めにコントロールするハイターゲットグループ)に分けて定義しました。遵守グループに対する死亡率のHR(ハザード比)は、低ターゲットグループやワイドターゲットグループで差はあまり無かったのですが、ハイターゲットグループは1.95倍と高値でした。全体の47%の27施設がガイドラインに沿って目標を設定しており、P平均値5.3 mg/dLであったのに対し、緩いPコントロールのハイターゲットグループの施設はP平均値が5.9 mg/dLと高く、生命予後不良でした。
そこで、高P血症に対し腎臓専門医や透析専門医はP低下薬を処方し、医師や栄養士によってはタンパク質が豊富な食品を含む食事性リン酸塩制限を推奨し、高P血症改善を目指しますが、後者は栄養状態に悪影響を与える可能性があります。12か国にわたる透析患者調査結果7)では、Alb値が低く、P値が高い HD 患者(例えばAlb3g/dL、P6mg/dL)に対して1日摂取タンパク量の増加を推奨する医師の施設では、筋肉量の指標になる血清クレアチニン値の上昇と全死因死亡率の低下に関連していたと報告されました。つまり食事量を減らしてリン酸塩を制限するよりも、P低下薬を服用しつつタンパク質の多い食事(お肉・お魚、豆腐や納豆等の大豆、卵等)はしっかり食べる方が良いと言えます。
参考
4)菅沼 信也, 阿部 達弥, 正木 一郎.クエン酸含有無酢酸重炭酸透析液を用いた高血液流量HDF療法 腎と透析別冊 87巻 HDF療法’19 P51-53, 2019
5)前田利朗. 6時間透析における生存率-20年の経験から- 日本透析医会雑誌25;95-100,2010