第131回 元気で長生き講座【2023年7月号】
~引き続き発熱時オセルタミビル(タミフル)
新型コロナウイルスの感染者数が増加の傾向にあり、第9波が今、始まっている可能性があります。感染症法上の位置づけが5月に5類に引き下げられて以来、大きな流行の兆しが出てきており、再び本院でも新型コロナウイルス感染症(COVID-19)罹患患者様が発生しております。5類に分類が下げられたとは言え、後遺症の問題は未だに解決されておらず、治療法も確立しておりません。とりわけ沖縄県の状況が深刻です。1医療機関当たりの感染者数が突出して多く、全国約5千の定点医療機関から6月12~18日に報告された感染者数は、1医療機関当たり平均5.6人でしたが、沖縄県では28.74人に上りました1)。暑さに伴うエアコン使用開始との関連も否定出来ず、換気を十分に行うことがやはり重要であると思われます。
医療従事者、高齢者や基礎疾患のある方を対象に、全国で春のワクチン接種が行われていますが、高齢者の接種率は4割弱にとどまっています1)。抗ウイルス薬をはじめとする治療薬の登場にも伴いCOVID-19の致死率は当初に比べて下がりましたが、感染力が高く、高齢者・透析患者様を含む基礎疾患のある方は依然重症化リスクがあることに変わりはありません。分類が変わっても、まだCOVID-19は収束していないことを念頭に、引き続きワクチン接種、換気、飛沫が生じる会話時を含むマスク着用や手洗いなどの感染対策継続をお勧めします。ご自宅へお帰りになった際は手洗いをされていると存じますが、ご来院時も、アルコールによる手指消毒もしくはアルコールより手荒れが起こりにくいことを第99回元気で長生き講座(2020年8月号)にて紹介しておりますオゾン手洗い装置ハンドレックス®による手洗いも是非お願い致します。手洗い後はペーパータオルもしくはご自身のハンカチで手をよく拭きましょう。同時に毎日の検温や体調管理に努めましょう。発熱時はクラスターや院内感染予防の為にも、直ちに完全個室での隔離透析実施も考慮しますので、必ずご来院前に本院までご連絡を頂きたく存じます。ご協力何卒宜しくお願い申し上げます。
以前より本院では抗ウイルス薬オセルタミビル(タミフル®)を全外来維持透析患者様に1カプセル(C)配布し、37.5℃以上の発熱時直ちに内服し本院までご連絡頂くこと2)と、COVID-19診断後は経過により5日毎の1C内服(自費となります)を奨励しております。この取り組みについて、先月神戸で開催された第68回日本透析医学会学術集会にて、本院の小山看護師が全国平均の約半分の本院の低い死亡率と共に発表しました。COVID-19に対するオセルタミビルの効果についてイランの研究者が下記内容の論文を昨年発表3)していますので紹介いたします。
COVID-19患者を対象に、2つの治療法を比較することにより、併用療法におけるオセルタミビルの有効性を評価しました。単一施設の後ろ向きコホート研究です。入院日によって、患者は 2つのグループに分けられました。グループ 1 (オセルタミビルグループ:2020年2月20日から2020年3月15日まで、通常療法に加えオセルタミビルが投与されたグループ)およびグループ2(対照群:2020年3月20日から2020年4月20日まで、アジスロマイシン500mg/日とヒドロキシクロロキン 200 mg/12 時間を含む通常療法のみを受けたグループ)を比較し、入院期間、集中治療室 (ICU) への入室、および人工呼吸器の使用、死亡率を調査しました。その結果、 2か月間でCOVID-19と診断された合計 285 人の患者が登録され、グループ 1 に 120 人、グループ 2 に 165 人が登録されました。入院から退院までの期間の中央値は、オセルタミビル群の方が有意に短く(グループ1:4.9 日 vs グループ2:6.6 日)、さらに、グループ1の方の死亡率が1.7%だったのに対し、グループ2は6.7%と、明らかにオセルタミビルを使用したグループの方が低い結果となり、統計学的有意差も認められました。統計学的有意差は認められませんでしたが、ICU への入室率 (グループ1:6.7% vs グループ2:11.5%)、人工呼吸器使用率 (グループ1:2.5% vs グループ2:4.8%) もオセルタミビル群の方が少ない結果となりました。この研究は、オセルタミビル投与が入院期間の短縮、早期回復と退院を可能とし、死亡率を下げることに寄与していたと考えられます。
参考URL・文献
3)A Zendehdel, M Bidkhori, M Ansarid, et al. Cohort Study: Efficacy of oseltamivir in the treatment of patients infected with Covid-19. Annals of Medicine and Surgery 77 2022; DOI: 10.1016/j.amsu.2022.103679