第127回 元気で長生き講座【2023年3月号】
~多くの利点を有する深夜透析(オーバーナイト透析)をお勧めします~
日機装社製個人用多用途透析装置を用いた深夜透析(オーバーナイト透析)用ベッド増床工事が今月完了し、本院第一透析室でもオーバーナイト透析が実施可能になります。2021年6月に開催された国内透析関連の最大の学会である日本透析医学会学術集会・総会にてオーバーナイト透析の教育講演をさせて頂いた際のスライドの一部を提示させて頂きます。
オーバーナイト透析の利点は、十分な透析時間を確保できることによる治療的観点からの良さ(長時間透析の良さ)と、生活の中で時間の有効活用ができる良さの双方を含む以下の7点があげられます。
在宅血液透析(HHD)を行っている患者様の中にも、在宅で漏血センサー(透析出血感知センサー)を使用しオーバーナイト透析を行っている方もいます1)。在宅透析の方法として腹膜透析(PD)もあり、PD+HD併用療法は通常週5~6日のPDに週一回のHDを併用しますが、週一回のHDを施設でのオーバーナイト透析にて行い、完全フルタイム勤務を実現されている方もいらして、昨年2022年11月に開催された国内PD関連の最大の学会である日本腹膜透析医学会学術集会・総会にて本院看護師が報告しております。
利点③に関連する海外からの報告をご紹介します。2011年フォーリーらの研究によると、3万人の調査で2日空いた時の死亡や入院の危険が有意に高いと報告されています。心臓関連疾患が死因となる確率が最も高いですが、現在でも収まることのない新型コロナウイルス感染症(COVID-19)などの感染症に罹患し死亡する率も2日空き後に有意に高いことも報告されています2)。
2012年チャンらの報告によると、2万人の透析間隔と死亡率との関連について、透析日と曜日別死亡率を調べたところ、月水金(a)は月曜日、火木土(b)は火曜日に最も高くなっていました。即ち最も透析間隔が空いた直後の曜日に死亡する確率が高かったことが示されています3)。
以上よりオーバーナイト透析は、週一日であっても本院の様に8時間のオーバーナイト透析を週末に行うことで最大間隔が2日空きから1.5日空きに短縮され、生命予後改善が期待出来ます。本院のオーバーナイト透析は、就寝中の抜針を防ぐためのテープの固定方法はテープをループさせるα(アルファ)固定(にて抜針件数が明らかに減ったことを本院看護師が2016年6月の日本透析医学会学術集会・総会にて報告しております)、透析装置のポンプと連動(センサー作動時にポンプが自動停止します)している透析出血感知センサー使用、施設では赤外線カメラを用いた状態観察など、安全に十分留意して実施しております。
利点⑥の貧血改善については、本院にて3ヶ月以上観察出来たオーバーナイト透析患者様9名で、3ヶ月後有意なヘモグロビン(Hb)値の上昇が認められました4)。オーバーナイト透析開始後リン値が低下し、リン吸着薬が中止出来た患者様もいらっしゃいます。栄養状態改善の報告もございます。
以上の様な多くのメリットを有するオーバーナイト透析実施を新たにご希望される方は腎内科クリニック世田谷スタッフまで是非お申し出ください。
参考文献
1)菅沼信也.安全で安心できる在宅血液透析(HHD)普及を目指して 腎内科クリニック世田谷における5つの取り組み.在宅血液透析2022;2(2):27-35.
2)Robert N. Foley et al. Long Interdialytic Interval and Mortality among Patients Receiving Hemodialysis. N Engl J Med 2011;365(12):1099-107.
3)Zhang H, Schaubel DE, Kalbfleisch JD, et al: Dialysis outcomes and analysis of practice patterns suggests the dialysis schedule affects day-of-week mortality. Kidney Int 2012; 81(11):1108-15.
4)菅沼信也.オーバーナイト血液透析(オーバーナイト透析).血液透析診療指針.東京:東京医学社,2021, 72-5.