人工透析・糖尿病専門外来 千歳烏山駅北口

腎内科クリニック世田谷
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菅沼院長の元気で長生き講座
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第126回 元気で長生き講座【2023年2月号】

菅沼院長の元気で長生き講座

 

~認知症予防の為にも新型コロナウイルス感染症に罹患しないことや長時間透析をお勧めします~

 

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が5月8日から第5類に変更されることが決定しましたが、決して落ち着いたと言える状況ではありません。透析患者におけるCOVID-19感染患者数は、2022年5月5日時点で累計6,218人が報告されています。症状も当初から変化しており、2021年12月31日までは、37.5℃以上の発熱80.8%、下痢12.6%、臭覚味覚異常8.4%みられましたが、2022年1月以降、それぞれ67.3、8.4、2.2%と減っています。逆に咽頭痛は21.8%から43.5%へと増えました。(表11)

 

1 COVID-19透析患者の症状(202255日時点)

2021年12/31まで 2022年1/1以降
37.5℃以上の発熱 80.8% 67.3%
咳嗽 55.1% 60.2%
咽頭痛 21.8% 43.5%
頭痛 12.2% 10.9%
鼻汁 16.1% 21.5%
嘔気・嘔吐 9.1% 6.6%
下痢 12.6% 8.4%
嗅覚味覚異常 8.4% 2.2%
(日本透析医会・日本透析医学会・日本腎臓学会 新型コロナウイルス感染対策合同委員会「透析施設におけるCOVID-19感染症例報告」より)

 

ワクチンの効果については、当初透析患者の方が接種後の抗体価が低いことが報告されていましたが、追加接種により高い抗体価が得られ、透析患者様におかれましても感染予防、重症化予防効果は確実に認められます。下図は2022年5月5日時点の、国内におけるワクチン、中和抗体薬、ラゲブリオカプセル®(モルヌラビル)(第116回元気で長生き講座【2022年3月号】ご参照下さい)投与後の透析患者の致死率を表したものです。これを見ると、ワクチンを2回接種した透析患者様の転帰不明を除く致死率は6.0%、3回接種した方ではわずか1.0%とワクチン未接種の透析患者の致死率26.6%と比較して、圧倒的に低いことが明らかになりました! 本院でも透析患者様におかれましては37.5℃以上の発熱時直ちにタミフル1C内服(第102回元気で長生き講座【2020年11月号】ご参照下さい)に加え、COVID-19診断確定時に発注し届き次第内服を開始頂くことを勧めておりますモルヌラビル内服透析患者様致死率も2.9%と低い数値が報告されています(下図1))。

 

ワクチン、中和抗体薬、モルヌピラビル投与後の致死率(2022年5月5日時点)

(日本透析医会・日本透析医学会・日本腎臓学会 新型コロナウイルス感染対策合同委員会「透析施設におけるCOVID-19感染症例報告」より)

 

ワクチン接種しても感染が収まらないとか、死亡者が増えていると話す方がいらっしゃるようですが、間違いです。イギリスで、ワクチン未接種者と接種者の間で、人口10万人あたりの全死亡者数(=死因を問わない死亡者数)を比較したところ、全死因による総死亡者数は、ワクチン未接種者の方がワクチン接種者よりはるかに多く、ワクチン接種開始時点から見られています。即ち、ワクチン接種により、全死因による死亡者数が減少しているのです。ワクチン接種者の死者数は接種の前後で大きな変動はありませんでした2)。もし反ワクチン派の言うことが正しければ、接種回数が増えるほど死者数が増えるはずです。下図をみてもワクチン接種によって死亡者数が減ったことは明らかです。

 

 

感染による後遺症についても新たな報告があります。本「元気で長生き講座」でも紹介しております岐阜大学大学院医学系研究科脳神経内科学分野教授の下畑享良先生のブログより下記を引用します。COVID-19に罹患すると、認知症のリスクが2倍になるとの毎日新聞朝刊1面での報道も先月(1月)16日なされました。

 

◆最多の神経合併症は認知症であった

欧州23カ国とその他7カ国の国際研究において,急性期~亜急性期の神経学的合併症を評価した研究が報告された.2021年7月までに,神経合併症を呈した1213人が検討された.主なものは,認知症(29.5%)が最も多く,ついで脳卒中(25.7%),睡眠覚醒障害(16.4%),自律神経障害(14.7%),末梢神経障害(9.5%),運動異常症(N=142,9.3%),運動失調(8.8%),けいれん発作(8.3%)であった.認知機能障害を合併した患者は非合併患者より10歳高齢で,脳卒中やパーキンソン病を基礎疾患に持つ人,重篤な感染の人が多く,生命・機能予後が不良で,入院中死亡も多かった.→ 既報では認知症は急性期~亜急性期の神経合併症として認識されていなかったが,追加すると最多であった.

Eur J Neurol. Oct 31, 2022(doi.org/10.1111/ene.15617)3)

 

下のスライド2枚は、私が昨年10月18日CKD合併症セミナーで講演した内容の一部です。同一患者で画像検査のMRIを3年の間で2回検査し、脳の萎縮度を計測した結果、前頭葉の萎縮が進行したこと、その萎縮度とその間の総透析における透析低血圧の総回数の間に有意な相関関係が認められたとの報告4)がなされています。透析中の急激な血圧低下が脳萎縮の原因となっていることが考えられます。透析時間を長くとると除水が緩やかになり、透析低血圧を予防することができます。奈良県立医科大学の鶴屋和彦腎臓内科学教授も「認知機能障害と脳萎縮の関係はよく知られています。血液透析患者さんの脳萎縮の原因としては、透析中の急激な血圧低下が関係していることが報告4)されています。透析時間も長い方が、時間あたりの除水量は少なくなりますので、望ましいと考えられます。」5)と述べておられます。第93回元気で長生き講座【2020年2月号】でも紹介しました通り、週3回8時間に同意した247例と年齢、性別、糖尿病の有無や透析歴をマッチさせた週3回4時間透析施行対照群と比較して1年間フォローし、予後、認知機能、QOL等を比較した結果、8時間の長時間透析群で有意に記憶力が改善を報告したとの報告6)もあり、長時間透析が認知症予防にもつながる可能性があります!

 

 

 

参考文献

1)安藤亮一. COVID-19 Update.日本透析医会誌 2022;37(3): 384-392.

2)Katelyn Jetelina, Kristen Panthagani. COVID-19 vaccines and sudden deaths: Separating fact from fiction. Your Local Epidemiologist. 2022.( https://yourlocalepidemiologist.substack.com/p/covid-19-vaccines-and-sudden-deaths

3)Ettore Beghi, et al. Comparative features and outcomes of major neurological complications of COVID-19 Eur J Neurol. 2023 Feb;30(2):413-433.doi: 10.1111/ene.15617.

4)Mizumasa T, Hirakata H, Yoshimitsu T,et al. Dialysis-related hypotension as a cause for progressive frontal lobe atrophy in chronic hemodialysis patients: a 3-years prospective study. Nephron 2004; 97: c23-c30

5)鶴屋和彦.透析患者さんの脳の病気~脳卒中と認知機能障害.腎不全を生きる 2017;56:23-26

6)Ercan Ok, Soner Duman, Gulay Asci, et al. Comparison of 4- and 8-h dialysis sessions in thrice-weekly in-centre haemodialysis: a prospective, case-controlled study. Nephrol Dial Transplant. 2011;26(4):1287-96.