第119回 元気で長生き講座【2022年6月号】
2021年12月末自主機能評価指標 ~本院の良好な透析治療結果のご案内~
本院も施設会員となっております日本透析医会は自主機能評価指標の項目を選定し、自律的に自らの診療内容や医療の質の評価を公開することを勧めており、本院でも選定された全ての評価指標項目を公表しております。Ⅲの治療指標は透析治療結果を反映するものです。
本院での腎性貧血管理は生命予後の観点からも鉄欠乏のリスクを高める赤血球造血刺激因子製剤(ESA)が過剰とならない事も目指しており、TSAT(鉄飽和率)20%以上に鉄が充足されていると生命予後良好1)や近年PIVOTAL研究にて鉄剤の積極的投与群と鉄欠乏になってから鉄補充を行う消極的投与群との比較で、積極的投与群でESA投与量や輸血が有意に少なく、心不全入院、心筋梗塞や全死亡が有意に少なかったと報告2)されており、鉄剤の積極的な投与によりヘモグロビン(Hb)平均値11.1(中央値11.0)g/dLと共に、貯蔵鉄の指標であるフェリチン(ferritin)平均値129.0(中央値73.3)、検査実施2021年11~12月)ng/mLと以前より上昇しており、ESA投与量が少ない方やエリスロポエチン抵抗性指数(ERI)低値での生命予後良好がわが国でも報告3)されており、鉄の値と血を固める作用を持つ血小板数に逆相関が認められ鉄剤によるESA減量及び血栓症予防効果が推察4)されており、沖縄でのESAによる脳梗塞や心筋梗塞増加も報告5)されており、ESA投与量が少ないERI低値の患者様が多くいらっしゃいます。日本透析医学会の2015年版 慢性腎臓病患者における腎性貧血治療のガイドライン6)に従いHb10~12g/dLを目標値としつつ、同じく生命予後との関連も明らかとなってきております鉄の状態にも引き続き注意していきたいと存じます。
iPTH(インタクトPTH)平均値149.4(中央値119.5)pg/dLと低下傾向でありますが、PTH値と生命予後との関連が低かった報告7)もあり、日本透析医学会の慢性腎臓病に伴う骨・ミネラル代謝異常(CKD-MBD)の診療ガイドライン 8)に従い、心臓の弁や血管壁等の骨以外の部位に石灰沈着を来してしまう異所性石灰化予防及び生命予後の観点からもリン(P)値、補正カルシウム値(cCa)、副甲状腺ホルモン(PTH)値の順に優先して良好な値を目指しており、cCa平均値は9を超えている全国平均よりも低い8.8(中央値8.8)mg/dL、cCa10 mg/dL以下の割合99.3%の良好な数値となっております。実際、上記CKD-MBDの診療ガイドラインに「透析患者においては血清Ca濃度がたとえ管理目標値内であってもできるだけ低く保つ方が生命予後を改善する可能性が示唆された」との記載がなされております。血清アルブミン(Alb)値4g/dL未満では補正式でcCaを算出します。
本院平均透析時間は5時間を超えており4人のうち3人の方が5時間以上の透析、5人にお一人は週18時間以上の長時間透析をお受け頂いております! 透析量の指標であるspKt/V1.2未満の一部の方は透析導入間 もない方らで、本院平均spKt/V値は1.83で2009年末のわが国の慢性透析療法の現況にてspKt/V1.8~2の方が最も(次いで2以上の方の)生命予後良好が報告されています。
「元気で長生き」を目標に可能な範囲でより良い治療結果が得られるよう皆様と共に今後も歩んでいきたいと考えておりますのでご理解とご協力を宜しくお願い申し上げます。
参考文献
1) Sato M, Hanafusa N, Tsuchiya K, et al. Impact of transferrin saturation on all-cause mortality in patients on maintenance hemodialysis. Blood Purif 2019;48:158–66
2) Macdougall C Iain, White C, Anker D Stefan, et al. Intravenous Iron in Patients Undergoing Maintenance Hemodialysis. N Engl J Med 2019;380(5):447-58
3) Eriguchi R, Taniguchi M, Ninomiya T, et al. Hyporesponsiveness to erythropoiesis-stimulating agent as a prognostic factor in Japanese hemodialysis patients: the Q-Cohort study. J Nephrol 2015;28(2):217-25
4) Yessayan L , Yee J, Zasuwa G, et al. Iron repletion is associated with reduction in platelet counts in non-dialysis chronic kidney disease patients independent of erythropoiesis-stimulating agent use: a retrospective cohort study.BMC Nephrology 2014;15:119
5) Iseki K, Nishime K, Uehara H,et al. Increased risk of cardiovascular disease with erythropoietin in chronic dialysis patients. Nephron 1997;76:116
6) 日本透析医学会.慢性腎臓病患者における腎性貧血治療のガイドライン.日本透析医学会雑誌 2016;49(2):89-158
7) Fukagawa M, Kido R, Komaba H,et al. Abnormal mineral metabolism and mortality in hemodialysis patients with secondary hyperparathyroidism: evidence from marginal structural models used to adjust for time-dependent confounding. Am J Kidney Dis 2014;63(6):979-87
8) 日本透析医学会. 慢性腎臓病に伴う骨・ミネラル代謝異常の診療ガイドライン.日本透析医学会雑誌 2012;45(4):301-56