第117回 元気で長生き講座【2022年4月号】
~長生きの為に長時間透析に加え、就労やリンゴを食べることをお勧めします~
就労と長生きの関係について、私も卒業した長野県飯田高校出身の大原直さんがメールマガジン【大原メルマガ】で述べており、とても興味深い内容でしたので紹介させていただきます。
『(前略)長野県人の有業率と医療費のデータが総務省から発表されました。総務省の「就業構造基本調査」を基に、65歳以上の人口に対する仕事を持っている人の割合「有業率」と医療費の都道府県別のデータが公表されました(2022年2月26日、日経新聞朝刊)。「有業率」が最も高かったのは長野県で30.4%、第2位は山梨県の30.3%でした。一方、働く高齢者が多い都道府県ほど医療費も抑制される傾向にあります。例えば男性の平均寿命(81.75歳)が2位で有業率がトップの長野県は、75歳以上の後期高齢者の1人当たりの年間医療費が約83万円と、全国で7番目に低くなっています。定年後は現役時代と同様に頭を使い、身体を使うことが最大の健康法になっており、生涯現役で社会の担い手になっている人が多いと分析されています。因みに、平均寿命(2015年度)については、男性が81.75歳と滋賀県の81.78 歳に次いで全国第2位、女性は87.68 歳と第1位となっています(記事)。長野県人は長寿であるとともに有業率が高く、生涯現役を志向する賢い生き方を実践する県民性と誇れるのではないでしょうか。』
透析患者様が就労するのに障壁となるのは透析を行う為に時間を費やさざるを得ないことです。就労と長生きに必要なしっかり透析の両立を叶える為に本院が行っているのが準夜透析やオーバーナイト透析(深夜透析)、在宅透析(PD:Peritoneal Dialysisの略称:腹膜透析/HHD:Home HemoDialysisの略称:在宅血液透析)等の働くためのお時間を確保頂くのに有効な透析方法です。深夜透析や在宅透析の実施により多くの皆様に是非ともご就労頂き長生きを実現して欲しいと考えております。
男女共に長野県が長寿県である理由について、野菜の摂取量が多い、喫煙率が低い、高地だから自然と内臓が鍛えられる、平均気圧が低い等、その理由がよく考察されていますが、かねてより県が一体となって進めている健康維持に対する様々な取り組みによるところが大きいともいわれています。元々雪国の為塩分摂取量が多く、脳卒中の比率が高い地域だった為、行政が直接指導を行ったことで、住民の食生活が改善し平均寿命を飛躍的に押し上げるきっかけになったそうです。
長野県は全国第2位のリンゴの生産地としても有名です。1日1個のリンゴは医者を遠ざける(An apple a day keeps the doctor away.)はイギリス(英国)のことわざですが、これが本当なのか、研究した結果が、世界的に権威ある英国の医学雑誌「ブリティッシュ・メディカル・ジャーナル(BMJ)」に発表されています。英国の50歳以上の方を対象に、リンゴはコレステロール値を下げることに注目し、コレステロールをスタチン系の薬を飲んでいない人が新たに開始したケースと、1日1個のリンゴ100gを食べた場合を比較し、心臓発作など血管の病気による死者数がどれほど減るかをシミュレーションしたものです※1。結果は薬を飲んだケースの英国での年間死亡者数の減少が9400例に対し、リンゴでは8500例の減少となり薬に軍配が上がったのですが、副作用や医療費等を鑑みるとリンゴの効果は非常に優秀といえます。本論文では、血管疾患の予防に対する栄養学的アプローチと製薬的アプローチの両方が、死亡率を大幅に低下させる可能性があり、同様の死亡率の低下により、150年前の健康増進メッセージは現代医学に匹敵し、副作用が少なくなる可能性があると述べられています。
アメリカでも同様の研究が行われました。2007年~2010年に実施された国民健康栄養調査を基に、アメリカの18才以上の約8400人のデータを分析したところ、1日1個のリンゴを食べている割合は全体の約9%であることがわかりました。その群は、それまでに受けた教育レベルが高く、有意に喫煙者が少なく、薬の処方量が少ない傾向があることがわかりました※2。
リンゴがどのように健康効果をもたらしているのかについてはっきりとはわかってはいませんが、リンゴに含まれるペクチン、ポリフェノール、カリウム(K)、食物繊維などが寄与しているようです。リンゴも長野県が長寿県である一つの要因かもしれません。日本のリンゴは200~400gと大きく半分~1/4の100g程度で海外での報告のような効果が得られると思われます。リンゴは果物ですので、Kが気になる方もいらっしゃるかと存じます。第36回元気で長生き講座(2014年11月号)でご紹介しました通り、生命予後との関係からは透析前K濃度は低すぎず高すぎず(5~5.5mEq/L)が理想でありますので、5未満の方はKの多いリンゴを含む果物や生野菜をしっかりと摂取頂き6mEq/L以上の方は、特にKの除去に有効な在宅透析(PD:腹膜透析/HHD:在宅血液透析)や深夜透析を含む長時間透析実施をお勧め致します。
※1 A.D.M. Briggs, A. Mizdrak, P. Scarborough. A statin a day keeps the doctor away: comparative proverb assessment modeling study.BMJ.2013;347:f7267 doi: 10.1136/bmj.f7267
※2 Matthew A. Davis, Julie P.W. Bynum, Brenda E. Sirovich. Appealing the Conventional Wisdom That an Apple a Day Keeps the Doctor Away. JAMA Intern Med. 2015;175(5):777-83