第107回 元気で長生き講座【2021年5月号】
~感染しない・させないためにも、改めてマスク着用の必要性が求められます~
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の予防に際し、マスク着用の重要性については、感染が広がり始めた2020年初春当初から言われており、過去に本院から発行した長生き講座でも何度も触れていることではあります。感染が世界的規模で広がってから1年経過し、COVID-19について様々な研究報告がなされています。ここにマスクの重要性についての下記タイトルの二つの論文をご紹介します。変異型の感染が広がっていますが、感染予防の基本は変わりませんので、ご一読ください。
〇Comparing Associations of State Reopening Strategies with COVID-19 Burden
アメリカ全州を対象とし、レストラン再開にあたりマスク着用なしで行った場合と、マスク着用義務を課した場合で、それぞれ感染者数、死者数が再開前と比べてどのように変化したかについて調査が行われました。
マスク着用義務なしでレストランを再開した群においては、8週間後には人口10万人あたり平均643.1例の感染がありましたが、マスク着用を義務として再開した群では新規感染例は平均62.9例にとどまりました。また、死亡者数においても,前者の31.7人に対し、後者は6.1人でした。新規感染者数9割減、死亡者数は8割減と、非常に大きな効果があることが認められました。さらに、アメリカの13の州においては、マスクを義務化してから6週間以内に5万人以上の過剰死の減少が見られたそうです。マスク着用義務化、十分な換気の実施、屋外での食事提供、60%以上のアルコールを用いた頻繁な手指消毒や清掃、テーブルレイアウトの工夫などの具体的な対策が推奨されます。また、二酸化炭素(CO2)濃度のモニタリングを行うことで密集状況を見える化することで、利用客の安心にもつながります。
Brystana G. Kaufman PhD et al:J Gen Intern Med. 35(12):3627-3634, 2020
先月の院内だよりで紹介させて頂きました通り、本院もCO2モニターを複数設置して適切な換気実施に役立てています。マスク会食は、理想的ではあるものの実際に実施するかは難しいところです。援腎会すずきクリニック院長の鈴木一裕先生が「マスク会食なんて極端な事を言わないで。まずは黙食。食べる前と食べた後はマスクをして会話。まずはそこから。」と仰っていますが、正にその通りかと存じます。マスクをしたままのお声も十分聞こえますので、飛沫が生じる発声(会話)時にマスクを外すことは絶対に辞めましょう。
〇COVID-19 Outbreak in an Urban Hemodialysis Unit
カナダの透析施設にて透析患者237名、スタッフ93名にPCR検査を行った結果、患者11名(4.6%)、スタッフ11名(12%)がPCR陽性で、陽性と判定された計22人中12人(55%)は検査時に無症状であり、22人中7人(32%)は追跡期間中無症状でした。
COVID-19では感染はしているが無症状である場合が最も厄介であり、知らないうちに感染を広めてしまう恐れがあるため、たとえ無症状であったとしても外出時にはマスクを着用することが必要で、更に手指衛生の徹底や三密(密集、密接、密閉)の回避等を行うことで感染予防に努めるべきと考えます。
Kevin Yau, et al:Am J Kidney Dis. 76(5):690-695.e1. 2020