第104回 元気で長生き講座【2021年2月号】
~新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する本院の対応と患者様へのお願い~
日本の透析患者様の死亡率は年齢別に見ると一般の約2倍程度であり、やはりハイリスク群であると考えられます。そのため透析患者様は症状に関わらず原則入院対応の方針となっております。しかしながら、テレビ等で報道されている通り、既に都内及び近県のCOVID-19対応が可能な入院透析ベッドは満床となっており、入院先を見つけることが困難になっているのが実情です。そのため、東京都福祉保健局より各透析施設宛に、入院先が見つからない場合は自宅待機の上、現透析施設で透析を行うよう要請が出ています。感染者数が増え続けている現状では、早晩いずれの地域も同様の対応を取らざるを得ません。
ワクチンの普及はまだ数ヶ月はかかります。確立された治療法は存在しないことから、感染予防が極めて重要な対策となります。常時マスクを着用し、手指衛生を徹底すること、人と人との距離を2メートル以上あけること、室内の換気を定期的に行い、環境表面の清掃・消毒を徹底することが重要です。
以下に、本院の治療方針と患者様にお願いしたい対策を明記します。
【本院の治療方針】
COVID-19に罹患された場合、下記の順に内服治療を行います。
- オセルタミビル(タミフルⓇ)
- ファモチジン(ガスターDⓇ)
- カモスタット(フオイパンⓇ)
肺炎で呼吸器症状が悪化し酸素投与が必要な場合、ステロイド「デキサメタゾン」が有効ですが外来治療は難しいため、悪化をしっかりと予防しましょう。
- オセルタミビル(タミフルⓇ)
第102回元気で長生き講座【2020年11月号】をご参照下さい。発熱時直ちにタミフル1C内服並びに本院へご連絡をお願い致します。予防投与ご希望の患者様はお申し出下さい。治療は5日毎、予防の場合は一週間毎の内服をお勧めします。
- ファモチジン(ガスターDⓇ)
米国におけるCOVID-19の入院患者84名において24時間以内にファモチジンが使用され、死亡又は気管挿管の発生率低下と関連した1)との報告があり、又、高用量の経口ファモチジンを内服した患者10名全てにおいて、開始24時間以内にCOVID-19の各種症状スコアの著しい改善2)が報告されています。投与ご希望の患者様はお申し出下さい。
1)Freedberg DE, Conigliaro J, Wang TC, et al. Famotidine Use is Associated with Improved Clinical Outcomes in Hospitalized COVID-19 Patients: A Propensity Score Matched Retrospective Cohort Study. Gastroenterology 2020:159(3):1129-31
2)Janowitz T, Gablenz E, Pattinson D, et al. Famotidine use and quantitative symptom tracking for COVID-19 in non-hospitalized patients: a case series. Gut 2020:doi.org/10.1136/gutjnl-2020-321852
- カモスタット(フオイパンⓇ)
実験用マウスに経口カモスタット30mg/kgを2回/日投与したところ、新型コロナウイルス感染マウス生存率を60%に改善した結果3)が出ています。この30mg/kgをヒトの用量に換算すると約2.1~2.4mg/kgになるので、体重60kgのヒトだと130~150mg/回の計算になります。これを1日2回投与に換算すると、通常膵炎で用いられる通常量の約1/2でよいことになります。したがってこの実験からの換算では、用量は認可量の範囲内に収まるようです。炎症反応が強い場合や発熱が続く場合内服をお勧めします。
3)Zhou Y, et al. Protease inhibitors targeting coronavirus and filovirus entry. Antiviral Res. 2015 Apr;116:76-84.
【患者様にお願いしたい感染症対策】
<衛生面>
- 常時正しくマスクを着用する(鼻と口の両方を確実に覆う、ゴムひもを耳にかける、フィットするように調節する)。
- マスクをはずして飲食する場合、他の方と一定の距離を保ち、極力マスク無しでの会話は控える。
- 手指衛生の徹底(アルコールによる手指消毒や手洗い):来院時玄関脇左手の手洗い場に設置のオゾン手洗い装置(ハンドレックスⓇ)での手洗いを推奨します。本院スタッフ同様に薬局等で購入可能な携帯型アルコール消毒ジェルを透析中含め適宜使用をお勧めします。
- 共有のものや、何かを触った手で顔、目、鼻、口を触らない。
- 穿刺時痛みで声が出てしまう患者様におかれましては、発声に伴う飛沫や密接予防の為、穿刺時に鼻と口の双方を覆う正しいマスク着用に加え穿刺者と反対の方向に頭を向けて頂けますよう、細かな事で恐縮ですがご協力をお願いいたします。
- 非接触型決済:お金も汚れていて感染の媒介となる可能性が指摘されています。Alipay(アリペイ)とPayPay(ペイペイ)によるお支払いが可能ですので、ご利用下さい。
- 来院回数が減少する、在宅透析(腹膜透析:PD、在宅血液透析:HHD)を推奨します。
<体調管理>
- 毎日体温を測定し健康観察を十分に行って下さい。
- 空気が乾燥すると、のどの粘膜の防御機能が低下し、感染しやすくなるので、適宜換気を行いながら適正な温湿度環境(室温25℃以上、湿度50%以上が理想)を院内含む屋内にて推奨します。
- 休養と食事は免疫力を保つ基本です。普段から偏りのない塩分以外の十分な食事を心がけ、睡眠不足にならないよう心がけて下さい。栄養状態の良い方や透析量の多い方が長生きされており、武漢大学人民病院の血液透析センターからの報告4)もあり「しっかり食べてしっかり透析」を推奨しています。免疫力維持の為、3不足(睡眠不足、栄養不足と透析不足)を避けましょう。
- 感染拡大期は不要不急の外出を減らすべきですが、体力維持の為、筋肉量の多い透析患者様が特に長生きされており、お1人もしくは少人数での散歩や、腹筋やスクワット等の筋トレ等の運動を推奨します。
- WHOはCOVID-19 Q&Aで「してはいけないこと」の第一に「喫煙」を挙げています。喫煙者・経験者の重症化率は非喫煙者より25倍有意に高いと報告5)されていますので、禁煙をお勧めします。
5)Roengrudee Patanavanich, Stanton A. Glantz. Smoking is Associated with COVID-19 Progression: A Meta-Analysis. medRxiv. Apr 16, 2020
<ソーシャルディスタンスの確保>
- 他の方と思いやり2メートルの距離をとりましょう。
- 感染拡大期の不要不急の外出や旅行は控える。特にご高齢の方や基礎疾患のある方、疲労気味、睡眠不足の方は、人込みや繁華街への外出は控えましょう。院内でも院外でも「3つの密(密閉、密集、密接)」が同時に重なる場を徹底して避けて下さい。
- COVID-19は発症二日前の自覚症状が無い段階から感染力を有し無症状の方もいる事から、新型コロナウイルス接触確認アプリ(COCOA)を使用して下さい。