第102回 元気で長生き講座【2020年11月号】
~感染予防策と共に毎日の検温を継続頂き、37.5度以上の発熱時にはインフルエンザ及び新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策として直ちにオセルタミビル(タミフル)服用を推奨します~
COVID-19の影響で数多くのイベントが中止や延期されている昨今ですが、医学会でも多くの学会・研究会が中止、延期やWeb開催になっております。令和2年10月10~11日に「第26回日本HDF医学会・学術集会・総会」がインターネットを通じてオンライン方式で開催されました。演者発表をライブ配信すると共に、その後1週間はオンデマンド配信で実施されました。本院からも西澤技士長が発表を行いました。
この中で「透析患者のCOVID-19重症化移行を阻止するための研究グループ」兵藤透先生の興味深いご発表を紹介致します。
演題名:透析患者のCOVID-19重症化を阻止に向けての文献的分析と現実的な対応についての考察:症状出現24時間以内にオセルタミビル(タミフル®)1cap(75mg)投与をすべきである
(内容)
①国内での透析患者のCOVID-19感染者数は2020年9月11日現在243名、死亡率13.6%であるが、70歳代以上の死亡率は22.7%に及ぶ。
②中国72314人の報告によれば患者の81%は軽症で重症化しない。
③病期が3段階あり、自覚症状が軽微なウイルス反応期に(タミフル等の)抗ウイルス薬を使用するのが戦略として考えられる。②の結果からは約80%がこの段階に留まり治癒する(文献A)。
④タミフルの24時間以内の早期投与がCOVID-19を疑わせる症例に有効であった(文献B)。
⑤通常の感冒の原因の4種類のコロナウイルスにもタミフルが有効であった(文献C)。
⑥武漢での1190例の患者分析ではタミフルとガンシクロビル(デノシン®)が重症例での死亡リスクを有意に減少させた(文献D)。
考察から、ワクチンがまだ開発されていない状況では、日本感染症学会の提言によればこの冬、インフルエンザとCOVID-19が同時に流行する事が懸念され、症状のみで両疾患を診断する事は困難で、かつ合併した例もあります。タミフルは、インフルエンザを罹患した透析患者様に対し安全に使用されてきた実績があり、日本ではCOVID-19に対しタミフルにて治療はまだ想定されていないが、一般と比較してCOVID-19を発症した際に死亡率が高い透析患者様にてCOVID-19が疑われる場合は、インフルエンザ併発の可能性も考え合わせ、特徴的な症状が認められた場合、タミフルをまずは、早急に投与すべきである、との発表です。
本院ではこの考えに賛同します。透析患者様の場合、十分な血中濃度が得られる為、予防であっても治療であってもタミフルは1カプセル(C)のみで済み、1Cで5日間は効果が持続します。インフルエンザ及びCOVID-19対策として、本院通院透析患者様全員にタミフルの後発品を1C配布致しますので、37.5℃以上の熱を認めた場合は、12~24時間以内、特に咳等の呼吸器症状を認めた際には直ちにタミフル1Cを内服して下さい。COVID-19重症化に最も関連していた症状は発熱との報告もなされています。タミフル内服により重症化を防ぎます。服用された際は必ず本院へご報告下さい。配布したタミフルは、使用期限が切れる頃に回収する予定です。手指衛生やマスク着用等の基本的感染予防策の継続と共にご理解の程お願い致します。
【タミフルに関する文献】
A.治療戦略として抗ウイルス薬を使用するのはStage1の症状が軽微の段階からである。
COVID-19 illness in native and immunosuppressed states: A clinical-therapeutic staging proposal.
Hasan K Siddiqi, Mandeep R Mehra. J Heart Lung Transplant. 2020;39(5):405-7
B.発熱出現からの24時間以内のタミフル投与がCOVID-19には予後に対し有効と思われる。
Effect of early oseltamivir on COVID-19-suspected outpatients without hypoxia.
Satoru Chiba. Research Square. DOI:https://doi.org/10.21203/rs.3.rs-33046/v1
C.通常の風邪の4種類のコロナウイルスでもタミフルが効く(罹病期間が1日短縮)。
Oseltamivir for coronavirus illness: post-hoc exploratory analysis of an open-label, pragmatic, randomised controlled trial in European primary care from 2016 to 2018.
Samuel Coenen, Alike Wvander Velden, Daniela Cianci, et al. Br J Gen Pract. 2020;70(696):e444-e449.
D.タミフルorデノシン使用例で死亡リスクが0.17倍と低値。
Clinical outcomes of COVID-19 in Wuhan, China: a large cohort study.
Jiao Liu, Sheng Zhang, Zhixiong Wu, et al. Ann. Intensive Care. 2020;10:99.