第94回 元気で長生き講座【2020年3月号】
~新型肺炎を来す新型コロナウイルス(COVID-19)を含む感染症対策~
透析患者様における感染症は一般人口に比べ、7.5倍とわが国の調査(Wakasugi M et al:Therapeutic Apheresis and Dialysis.16巻3号 P226-31, 2012)で、82倍とヨーロッパの調査(Vogelzang JL et al:Nephrol Dial Transplant. 2015 ;30(6):1028-37.)で、高率と報告されており、透析患者様における感染症死も増加傾向にあり、特に肺炎が最も多く認めています。COVID-19も感染経路として接触並びに飛沫感染が言われており、以下のような感染症予防策の励行をお勧め致します。
1.接触予防策としての普段からの手指衛生の励行:共用のものや目、鼻や口を手でむやみに触らないようにして頂き、アルコール消毒も有効とされており玄関で実施もお勧め致します
2.飛沫感染対策としてはマスクの着用と咳エチケット:マスクが無い場合の咳やくしゃみをする際はハンカチ、ティッシュや二の腕で鼻や口を覆う
3.発熱等の感染症を疑う症状のある際は、透析室入室前にご連絡頂き完全個室での透析を考慮致します
4.予防の為のインフルエンザ、65才以上の方は肺炎球菌ワクチン接種
5.不要不急の病院利用や人混みは避ける
4については、肺炎球菌ワクチンは単独よりもインフルエンザワクチンとの併用接種の死亡率が最も低いとの報告(Bond TC et al:Am J Kidney Dis. 2012;60(6):959-65.)があり、併用接種が推奨されています。
薬剤と感染症との関連では、九州大学の田中らはQコホート研究にて二次性副甲状腺機能亢進症に対するビタミンD受容体作動薬(経口薬アルファロール®等、静注薬オキサロール®、ロカルトロール®)投与と感染症死亡リスクとの間に有意な負の関連が認められ、特に静注群の死亡リスクはHR0.16と低く、経口群でもHR0.39であったと報告(Nephrol Dial Transplant. 2016;31(7):1152-60.)しています。
下伊那厚生病院の風間らは本院でも使用しております血液浄化器AN69膜が生命予後に与える影響を検討し、菅沼の出身地である飯田下伊那地区7透析施設の維持透析患者のうち、329人を対象としマッチングを行った結果、AN群32人、対照群32人が割り付けられ、非感染症死はAN群96.7%、対照群80.6%で有意差は認めなかったがAN群で少ない傾向(P=0.072)、対照群に対するAN群の相対死亡リスクは全死亡が0.648、感染症死が0.176で感染症死が少ない傾向(P=0.113)を報告(長野県透析研究会誌41巻1号 P111-4,2018)しています。吸着特性を有するAN膜による栄養改善効果や炎症性サイトカインIL-6除去率が有意に他の膜より高いことも報告されており、感染症死を減らす効果があることが示唆されます。栄養状態の改善はからだの抵抗力(免疫力)が高まることも期待出来るため、本院が栄養状態改善効果を報告している間歇補充型血液透析濾過(I-HDF)や栄養状態改善効果が報告されているクエン酸含有無酢酸重炭酸透析液カーボスター使用や長時間透析も透析患者様における感染症死低減に寄与する可能性が考えられます。
新型コロナウイルスは当初2019-nCoVと呼ばれていましたが、世界保健機関(WHO)がCOVID-19と命名しました。喫煙習慣は肺胞のCOVID-19の受容体であるACE2発現を増強する為、喫煙者はCOVID-19の影響を受けやすい可能性があるとの報告(https://www.preprints.org/manuscript/202002.0051/v1)が先月なされており、禁煙もお勧めします。
本院で行っております在宅透析(腹膜透析:PDもしくは在宅血液透析:HHD)においては通院回数が減ることにより院内感染(肝炎、感染性腸炎、インフルエンザ等)のリスクも低くなるメリットもございます!