第90回 元気で長生き講座【2019年10月号】
~「超長期透析歴患者における高血液流量オンラインHDF療法 ~透析歴50年を目指して~」~
高血液流量透析によって発生したマイクロバブル(MB)が脳や肺の微少血管を閉塞させて臓器障害を起こすのではないかという懸念、特に栄養状態悪化や食事量低下が危惧される高齢者や超長期透析歴患者には高血流を避けるべきとの意見があるため、高血液流量透析を行っている透析歴40年以上の本院超長期透析患者様3名と、40年以上の超長期透析患者様10名もの唯一の既報(鈴木正司、他.日本透析医会誌31:43-52, 2016)との比較を行い、令和元年6月29日、パシフィコ横浜で開催されました第64回日本透析医学会学術集会・総会にて、菅沼が報告しましたので、その内容をご紹介いたします。
本院における過去10年の粗死亡率は5.1%と全国平均9.8%に比べ有意に低く、療法別ではオンラインHDF群が4.1%と最も低く、透析時間、膜面積、血流量(QB)、補液量(QS)を増大し近年低下傾向にあります。
本院超長期透析患者様導入時年齢、現年齢、総たんぱく(TP)、副甲状腺ホルモン(i-PTH),カルシウム(Ca),リン(P)に差はありませんでしたが、透析低血圧への対応でクエン酸含有無酢酸重炭酸透析液(カーボスター)を用いたオンラインHDFを実施しており、オンラインHDF実施にも関わらず平均spKt/V2.3、アルブミン(Alb)3.77g/dLと既報に比べ有意に高く、ヘモグロビン(Hb)値も11.3と高い傾向にありました。投与量の多い透析患者様における生命予後不良が報告されている赤血球造血刺激因子製剤(ESA)使用量も少なく、使用していない患者様もいらっしゃいました。
高血液流量透析にて仮にMBによる脳卒中や栄養状態悪化が増加するとすれば、粗死亡率上昇、Alb値低下が予測されますが、超長期透析患者様でも良好な透析量(Kt/V)、栄養状態(Alb)、貧血管理が得られており、Kt/VやAlb高値の血液透析患者様が長生きされていることが報告されており、むしろ生命予後良好の可能性が示唆されます。高血液流量透析を含む透析量増加は、食事制限を緩和し、良好な生命予後や栄養状態をもたらす、超長期透析歴患者様にも適用可能な透析法の可能性があります。