第85回 元気で長生き講座(2019年5月号)
~長時間透析は疲労改善につながる可能性があります~
江戸川病院生活習慣病CKDセンターのセンター長、元東京女子医科大学東医療センター教授 佐中 孜(ツトム)先生の研究論文『血液透析患者における慢性疲労に対するレボカルニチン塩化物の疲労スケールへの臨床効果とカルニチン分画への影響』に菅沼も共著者として名前が載りました。本年、東京医学社発行の『腎と透析 第86巻第3号』に掲載(腎と透析86(3)P357-362,2019)されました。佐中先生の研究に本院も参加させて頂きました。その際に協力してくださいました患者様にはこの場を借りて御礼申し上げます。疲労の原因としてカルニチン欠乏症も言われており、透析患者様にカルニチン欠乏症の飲み薬であるレボカルニチン製剤エルカルチン錠を内服して頂き、血中のアシルカルニチン濃度(AC)と遊離カルニチン濃度(FC)双方を測定する血中カルニチン2分画検査を含む採血とアンケートを行った結果、カルニチン内服前のACと総疲労スコアに有意な正相関が認められ、カルニチンが透析患者様における慢性疲労の改善に有用で、その背景にACをコントロールすることの重要性が示唆されました。現在エルカルチンは注射薬もあり、本院にて透析後に投与されている方も多くいらっしゃいます。
第62回元気で長生き講座(2017年2月号)にてご紹介しましたが、東京医科大学病院腎臓内科教授菅野義彦先生が肉類を多く摂取されている透析患者様が長生きされていたことを報告しておられます。食肉から供給されるカルニチンが有用な可能性が考えられます。特に赤みのお肉に多く含まれるカルニチンには貧血や心機能改善作用、下肢つり予防等の効用も報告されています。蛋白質摂取によるリン(P)値上昇を心配される方もいらっしゃると存じますが、乳製品と異なり、魚や肉類に含まれるPは比較的少ないことが知られております。高P血症対策は食事でのP制限の前にまずは透析量(特に透析の回数や時間)の増加、次にP吸着薬をお勧め致します。蛋白質は筋肉の元になります。筋肉量が多い透析患者様が特に長生きされておられますので、積極的な蛋白質摂取と歩行等の運動で筋肉量が維持又は増加し、元気で長生きにつながることでしょう!
日本小児科学会が昨年学会ホームページに掲載した「カルニチン欠乏症の診断・治療指針2018」では、FC20μmole/L未満でカルニチン欠乏症と診断し、FC20以上でも36μmole/L未満又はAC/FC比が0.4μmole/Lを越えていればカルニチン欠乏症が発症する可能性が極めて高くカルニチン補充を検討と記載されています。佐中先生の論文で登場した海外の論文(Hothi DK, Geary DF, Fisher L, Chan CT. Short-term effects of nocturnal haemodialysis on carnitine metabolism. Nephrol Dial Transplant. 2006 21(9):2637-41.)にて、通常の日中の短時間血液透析から夜間透析(1回8時間の透析を週5~6回 計週40~48時間もの長時間透析)、即ち、長時間透析に変更により、2か月後透析量の有意な増加(透析1回あたりのequilibrated Kt/V (eKt/V) 平均値が1.13 から2.1に上昇)に加えAC/FC比の平均値が0.51 から(0.4未満の)0.39μmole/Lに低下(改善)し、カルニチン欠乏症改善の可能性が報告されています。本院では週末に1回8時間の深夜のオーバーナイト透析を実施しております。長時間透析は、時間あたりの除水量も少なくなり、透析中の血圧低下や透析後の疲労が軽減することが考えられます。「透析後に体が疲れている・・」などの疲労でお悩みの方は長時間透析をお勧めします!