第84回 元気で長生き講座(2019年4月号)
~血液透析(HD)にて透析時間が長い方が、透析中や透析後の辛い症状は軽減されることが少なくありません~
公立福生病院での44歳の患者様における透析中止は衝撃的でした。透析施設は日本では、入院は基幹病院、日々の維持血液透析(HD)は主に無床の本院のような透析クリニックにてお受けになるのが最も多くなっております。内シャントが閉塞したら透析を止めるとその患者様はおっしゃっておいでだったようですが、日頃の外来維持HDが相当お辛かったのでしょうか? 日頃の維持HDが辛いものであれば、その辛さが軽減されるような長時間透析の実施や透析方法の見直し等何か手立てがなかったのでしょうか? 本院でも福生病院でも実施中の腹膜透析(PD)を仮に行うとすれば、5年の透析歴があり、既に残腎機能が喪失した末期腎不全状態であったと考えられ、その場合、PD単独では透析不足となることが多い為、通常週5(~6)日のPDと週1回のみHDを実施するPD+HD併用療法の選択枝はあったかも知れません。HDでは透析時間が長い方が、透析中や透析後の辛い症状は軽減されることが少なくありません。HDが辛い場合はむしろ透析時間延長を是非ご検討下さい。今回小生と共にテレビ朝日の取材を受けた患者様も6時間の長時間透析開始後、高血圧が改善し降圧剤が減量出来ております。又、透析時間延長は、高リン血症や貧血改善をもたらし、高価なリン吸着薬や造血ホルモン製剤(ESA)が減量出来、最も医療費がかかる入院する頻度も下がり、高額な透析医療費抑制につながることも期待出来ます。今回の患者様において精神的に不安定であったとの報道もあり、仮にそうであった場合心療内科もしくは精神科へのコンサルトが必要だったかも知れません。
HDに必要ないわゆるバスキュラーアクセス(VA)には、1.内シャント(自己血管もしくは人工血管:グラフト)、2.動脈表在化 3.カテーテルの主な3つがあります。VA不全の緊急時には、本院でも行っております肘部動脈直接穿刺を行うこともあります。合併症が少なく理想的なVAは自己血管内シャントですが、1.高齢者 2.糖尿病 3.女性の方は、血管が細くVA作成困難な場合がございます。今回の患者様も糖尿病がある女性でした。シャント閉塞の時点でご入院頂き一時的にカテーテルを挿入し、内シャント再建もしくは動脈表在化がなされ、術後に新しいVAが使用可能となった時点でカテーテル抜去となり退院出来たのではないでしょうか? カテーテルにはこのような一時的に使用するテンポラリーカテーテルと外来でも継続して長期的に使用可能なパーマネントカテーテルがございます。本院で透析歴40年を越えている患者様が人工血管を含むVA手術を繰り返し、某病院にてパーマネントカテーテルしかないと言われ、拒否なさってご相談下さいました。そこで、本院にてVA外来を担当して頂いております、公立福生病院と同じく公立系の東京都保健医療公社大久保病院外科を本院よりご紹介し、長時間の手術により、見事自己血管内シャントを新たに作成頂き、現在も無事使用を継続出来ている患者様がいらっしゃいます。今回の患者様もしくはご家族様は入院前に外来通院されておられた透析クリニックに相談なされなかったのでしょうか? もっとも透析クリニックとしても、基幹病院との関係維持の為にも別の基幹病院をご紹介することはなかなか難しい場合も正直ございますが、個々の患者様のご希望に応じて、優れた専門医がいらっしゃるより多くの基幹病院や他科にも治療のお願いやコンサルトをする形で、重篤な合併症を生じた患者様におかれましても、本院のような透析クリニックでの日々の外来維持血液透析が継続出来ますことを大いに期待しております。本院外来維持血液透析中はもちろん、ご入院中であったとしても、何かございました際は本院にも是非ご相談下さいませ。