第46回 元気で長生き講座(2015年9月号)
~低栄養を招く食欲低下に気をつけましょう!~
今年は猛暑により食欲がなくなってしまった患者様もいらっしゃるのではないかと心配しております。元気な体を維持し活動するのに必要な栄養素が足りない状態=『低栄養』は生命予後にも関連する重大な問題です。『低栄養』状態になる原因としては、「不適切な透析条件」「味覚障害」「何らかの合併症」「不適切な食事制限」「運動不足」のいずれかが主に考えられます。
1.不適切な透析条件
透析液の清浄化が不完全な場合があり得ますが、オンライン血液透析濾過(HDF)を実施し、逆濾過透析液を日常的に使用する透析装置を設置している本院は、透析液の完全な清浄化がなされています。また、透析不足があると尿毒症物質が身体に蓄積することにより食欲低下をもたらす原因となります。その場合は、透析時間を延ばす、血流量を増やす、血液浄化器の変更等をお勧めしております。本院では、食欲低下がある方向けの透析条件として、低栄養の原因となる代謝性アシドーシスの改善に有効な酢酸が含まれていない透析液を使用した積層型ダイアライザによる血液透析(HD)、もしくは血圧低下や下肢つれの防止、老廃物がよりよく除去できる透析方法である間歇補充型HDF(I-HDF)をお勧めしております。
2.味覚障害
舌の細胞の再生に関わるZn(亜鉛)の不足が最もよく見られる原因です。血中亜鉛濃度が低い場合は、亜鉛を含むプロマックD錠(一般名:ポラプレジンク)の内服をお勧めします
3.何らかの合併症
炎症性疾患、内分泌疾患、胃腸疾患や悪性腫瘍等が原因となる場合があります。血液中のホルモンの値を測定する採血検査、便潜血検査や胃カメラによる検査等によりお体を精査することをお勧めします。
4.不適切な食事制限
アルブミン(Alb)値やK(カリウム)値が高くないにも関わらず、タンパク質やカリウム等を制限していませんか?その制限により、必要な栄養を摂取できていないかもしれません。透析量を増加することにより、カリウムやP(リン)の除去が容易になり、塩分以外の食事制限は不要になることも少なくありません。塩分制限についても、透析間体重増加が多くない場合、つまり二日空きでドライウェイト(DW)の4%未満、一日空きでDWの2%未満の増加の場合は、制限を緩和できる可能性があります。
5.運動不足
活動量が少なく、歩行や筋力トレーニング等の運動量が不足している場合は、エネルギーの代謝が減るため空腹になりにくくなります。これが食事量の減る原因と考えられます。
最近食欲が落ちてきたという方は、ぜひこのような事柄に気をつけていただき、生命予後に関連する低栄養を起こさないようにしましょう。栄養状態の良い方、筋肉量の多い方や透析量の多い方が長生きされておられます。「元気で長生き」を実現していただくためには「しっかり食べて動いてしっかり透析」をお勧め致します!