人工透析・糖尿病専門外来 千歳烏山駅北口

腎内科クリニック世田谷
〒157-0062 東京都世田谷区南烏山4-21-14

菅沼院長の元気で長生き講座
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第39回 元気で長生き講座(2015年2月号)

菅沼院長の元気で長生き講座

〜不整脈予防に高カリウム(K)血症の方を除きK摂取をお勧めします〜

 

「私は透析中に不整脈(徐脈・瀕脈)の発生が瀕回になり、QB(血流量)を約400~380から約270~240に下げてもらったところ、透析中も日常生活中もすっかり不整脈は発生しなくなりました。本院では不整脈があると直ぐに循環器科への受診を勧めているようですが、高血流である場合はまず、血流を下げ経過観察が優先されると思います。まちがいなく高血流は循環器環境に影響を与えており、先生の『同じ圧力で入り、同じ圧力で引く』という御発言は何ら説明になっていないと判断いたします。今後とも患者自身の容態に合わせた心ある優しい医療提供を期待するものです。」

 

腎内科クリニック世田谷患者友の会および本院宛てに匿名の患者様より貴重なご意見を頂きましたので、全文のご紹介と共にご回答申し上げます。不整脈は、

 

A.致死的となり得る不整脈、即ち心臓の停止を起こしやすい不整脈

B.血行動態(循環動態)に影響を与える不整脈

C.経過観察で良い不整脈

 

の3つがございます。Aは高K血症でも生じやすいことが知られており、Kの制限やしっかり透析が推奨されて今す。実施患者様での生命予後良好が報告されている高血流も高K血症の予防に有効でしょう。

一方、B.として、動悸を起こす心房細動(AF)の頻度が最も高く、透析導入時に既に12%の方に認め、導入後新たに2年以内に12%の方に認め、加齢や透析歴と共に増加し、70歳以上の透析患者様の30%以上に認めるとの報告がございます。AFの原因や発症リスクは、

 

1.左心房への容量負荷

2.心筋症

3.虚血性心疾患(狭心症や心筋梗塞)

4.心臓弁膜症

5.急激な除水

6.Kやカルシウム等の電解質の変化

7.左室心機能低下

8.心臓の弁石灰化

9.貧血

10.炎症(CRP高値)

 

が報告されており、透析間体重増加を少なくすることが望まれます。今回血流量を低下させた後、不整脈が出なくなったとの事で、先月もご紹介させて頂いた鈴木一之先生著の「透析医が透析患者になってわかった「しっかり透析のヒケツ」エビデンスに基づく患者さん本位の至適透析改訂2版」(メディカ出版)の「3章しっかり透析の基礎知識」「3血液流量と透析液流量から透析高率を考える」内の「透析効率を上げたときに注意すべきこと(91頁)」および「血液流量に関する思い込みはなぜ生まれたか(89頁)」にそれぞれ「透析効率の増加に伴う問題としては、透析中の電解質の変動、とくにKの低下がみられることがある点です。

 

透析中の不整脈などの合併症を避けるためには、透析液K濃度の調整やK補充など、配慮が必要な場合があります。」、「イタリアのロンコ(Ronco,C.)医師は、500mL/分の血液流量では、透析時に自己血管内シャント〔自己血管皮下動静脈瘻(arteriovenousfistula;AVF)〕を流れる血液流量や心機能が変化しないこと、400mL/分の血液流量で2年間続けても、心臓への影響がほとんどなかったことなどを報告しています。つまり回路を通る血流は内シャント(AVF)の血流の一部であり心臓への負担が増大することはないと考えられます。

 

近年アメリカで行われたHEMO(The hemodialysisstudy)研究でも、おもに血液流量を増加させて透析量を大きくした高透析量群(highKt/V)において、総死亡に対するリスクも、心臓病で死亡するリスクも増加していません。結局、血液流量を上げると濾過圧も上がってしまった時代の経験と、血液を引き出してグルグルと回しているのがいかにも心臓に悪そうだという印象が相まって、血液流量を上げると心臓に悪いという話に結びついたのではないでしょうか。」と記載されており、今回、透析後の低K血症が抑制され、不整脈が生じにくくなったことが考えられます。

 

K濃度は個人差が大きく、本院での高効率透析実施下においても高K血症に対するK吸着薬を内服されておられる方もいらして、一部のベッドを除き本院も日本で主流のセントラル透析液供給システム(CDDS)採用のため、透析液K濃度の調整は困難です。昨年の11月号にてK値がやや高値の方がむしろ長生きされている事も紹介させて頂いており、高血流が心臓に悪いのではなく、高K血症のみならず貧血や低K血症が心臓に悪いため、塩分水制限をしつつ、不整脈予防に高K血症の方を除き果物や生野菜等のK摂取をお勧めします!

 

又、両者は合併しやすいのですが、貧血と炎症(CRP高値)が生じておりますと、不整脈発症の一因となり、又、食事摂取が不十分となりK低下を認めていた複合的要因も考えられます。AFの治療は、除細動治療(カテーテル焼灼術、薬物的除細動又は電気的除細動)の積極的考慮が望まれ、ペースメーカーが必要となる場合もあり、循環器専門医との連携が必須です。無酸素運動がK値を上昇させるとの報告もあり、筋力トレーニングも有効である可能性が考えられ、塩分水制限下での「しっかり食べて動いてしっかり透析」が推奨されます。

 

一方、透析時間を延ばさずに血流量低下は透析量低下を来します。その結果、高リン(P)血症を来すと、心臓の弁石灰化を介した心臓弁膜症、動脈硬化を介した虚血性心疾患を来たし、二次的に不整脈をもたらす事が考えられ、本院の全国平均を上回る好成績に高血流透析を含む高効率透析が貢献している可能性が高く、今回ご意見を頂いた患者様におかれましても、不整脈の原因を全て高血流のせいにされる事無く、今後、透析量低下に伴い、生命予後との関連が報告されている透析アミロイドーシスの原因蛋白β2マイクログロブリン(β2MG)値上昇や高P血症等を認めた場合は、急激な除水や急激な電解質変化が緩和されるさらなる透析時間延長による透析量増加やP吸着薬増量等をお勧めさせて頂きたくお願いを申し上げます。

 

私としましても、貴重なご意見を頂きました事に心より感謝すると共に、御希望もお伺いしながら、「元気で長生き」を目標に、不整脈を含む合併症に対しても個々の患者様の病態に応じたより柔軟な対応を目指して精進して参りたいと存じます。