第34回 元気で長生き講座(2014年9月号)
~高効率無酢酸透析における異所性石灰化抑制の可能性〜
2009年末のわが国の慢性透析療法の現況にて透析量を示すsinglepool(sp)Kt/V1.8以上の透析量の多い方で生命予後良好も報告され、本院は2008年の開院以降個人用透析装置の数名の方以外無酢酸透析を継続し、より良い生命予後を目指し平均透析時間を延長し、高血流量、大膜面積血液浄化器により平均spKt/V1.8以上の高効率透析を行っています。
血管石灰化を含む異所性石灰化は生命予後に影響する事が知られていますが、異所性石灰化の是正可能なリスク因子として補正カルシウム(cCa)×リン(P)積の値、ビタミンD欠乏及び過剰投与、ビタミンK欠乏、副甲状腺ホルモン(PTH)が低値となる無形成骨、PTHが高値となる二次性副甲状腺機能亢進症、ワーファリン投与、炭酸カルシウム投与量、高血糖、高血圧、脂質異常等が報告されており、これらに対する取り組みを行っています。
維持透析中の方におかれましては心臓超音波検査上大動脈弁石灰化、僧帽弁石灰化共に高頻度に認め、特に大動脈弁石灰化を認めると17倍の高い頻度で大動脈弁狭窄症(AS)手術が発生すると辻本先生らが報告(透析会誌45(11):1010-1011,2012)しており、無酢酸透析継続中本院で心臓超音波検査を行った110名の患者様においても高率に弁の石灰化を認めております。しかし、透析患者様で3.4~15%と高率に認めると報告されているASは3名のみの2.7%と極めて少なく、いずれも軽度で新規のAS手術は本院では発生していません。これまでの3.4%と本院同様低頻度の報告は55歳以下で透析導入かつ重度の方をASと診断しており、その他は国内での報告を含め10%以上の頻度との報告です。実際、本院転院前の酢酸含有透析液による血液透析実施中AS手術に至った方が複数いらっしゃいます。
血管石灰化は、透析患者様にて足踵動脈血圧/上腕動脈血圧比(ABI)0.9未満16.6~38.3%と高率に認めると報告されており末梢動脈の狭窄や閉塞を認める末梢動脈疾患や、小動脈の石灰化により強い痛みを伴う難治性皮膚潰瘍を認めるカルシフィラキシスを来します。無酢酸透析継続中本院で血圧脈波検査を行った128名の平均ABI1.02±0.19で、片方でもABI0.9未満は28.1%認めていましたが、片方でも血管石灰化や動脈硬化との関連が言われているABI1.3以上は3.9%と少なく、新規の下肢切断手術やカルシフィラキシスも本院では発生していません。
重炭酸(HCO3-)濃度が低値となる代謝性アシドーシスの程度が強い程冠動脈石灰化指数高値の報告(OkaM,etal:TherApherDial.16:267-271,2012)もあり、代謝性アシドーシスの改善に優れた高効率無酢酸透析においては生命予後に影響する重篤な異所性石灰化は少ない可能性が考えられます!