第72回 元気で長生き講座(2018年2月号)
~本院では良好な生命予後(長生き)をもたらす可能性の高い膜材質の血液浄化器を積極的に用いております~
わが国においては血液浄化器にも非常に多くの種類があり、各透析施設で採用されている血液浄化器も多岐にわたっており膜面積、膜材質も多くございます。日本透析医学会における2009年末の「わが国の慢性透析療法の現況」にて、大膜面積使用者生命予後良好が報告されており、本院では大きな膜面積の血液浄化器を中心に用いております。種類により性能も異なっており、より大きな尿毒素が除去される血液浄化器の性能が高いとされていますが、高性能な血液浄化器ではアルブミン等の栄養素も抜けすぎてしまうこともあるので、食事量(特に蛋白質摂取量)の少ない方は注意が必要です。
膜材質としては、日本で最も使用されているのがポリスルフォン膜(PS膜)です。しかし、2009年末の「わが国の慢性透析療法の現況」にて、血液浄化器膜材質別生命予後が報告されており、PS膜使用者よりポリメチルメタクリレート(PMMA膜)及びポリエーテルスルフォン膜(PES膜)使用者の方が様々な補正の結果1年後の生命予後良好が報告されております1)。この結果より本院では以前よりPS膜よりPES膜を積極的に使用してまいりました。この結果を日本大学医学部附属板橋病院 腎臓・高血圧・内分泌内科阿部雅紀教授がさらに検証し、やはりPS膜使用者よりもPMMA膜及びPES膜使用者の方が様々な要因を取り除いても2年後も生命予後良好を昨年報告されました2)。この結果よりPMMA膜使用を本院では新年より再開しました。PMMA膜は、痒み改善、栄養状態改善、貧血改善等の多くの効果が報告されております。血液浄化器には血液透析(HD)で用いる血液透析器(ダイアライザ)と血液透析濾過(HDF)で用いる血液透析濾過器(ヘモダイアフィルタ)がございますが、PMMA膜のヘモダイアフィルタはありません。一方、PES膜にはダイアライザとヘモダイアフィルタ双方があり、HDF実施患者様にも使用可能です。PES膜にはPS膜と異なりビスフェノールAという物質が含まれておらず、PES膜使用時PS膜使用時よりも炎症反応マーカーであるCRPとIL-6が低値であったことが報告されており、CRP低値の透析患者様生命予後良好の報告もあり、PS膜使用者よりもPES膜使用者の方が生命予後良好の要因となっていることが考えられます。本院ではこれらの良好な生命予後(長生き)をもたらす可能性の高い膜材質の血液浄化器を積極的に用いております!
引用文献
1) 日本透析医学会統計調査委員会.透析処方関連指標と生命予後.図説 わが国の慢性透析療法の現況 2009年12月31日現在; 66-89, 2009
2)Abe M, et al. Am J Nephrol 46; 82-92, 2017.