第58回 元気で長生き講座(2016年9月号)
~しっかり食べてしっかり透析及び適切なリン(P)吸着薬は良好な血液ガス分析結果をもたらし長生きにつながることが期待出来ます~
本院では専用の検査装置を院内に備えており、二日空きの際に実施する採血に加え定期的に水曜日もしくは木曜日の中日に血液ガス分析も行っております。保険上いわゆるマルメのため、費用のかかるこの検査を行っていない透析施設も少なくないようです。
血液ガス分析を行う目的は、主に二日空きの際に実施する採血では正確な評価が困難な、
- 呼吸状態の評価
- 重炭酸濃度の数値により血液がアルカリ性か酸性かを判定
の2点です。その他、いわゆる電解質のカリウム(K)やナトリウム(Na)値の評価も可能ですが、二日空きの際に実施する採血でも測定されています。
呼吸状態は、主に低酸素血症の有無を確認しています。血液ガス分析や指にて評価するパルスオキシメータによる酸素飽和度にて低酸素血症があった場合は、浮腫、うっ血性心不全や肺水腫等の溢水があれば、DW(ドライウエイト:透析後目標体重・基準体重・乾燥体重・基礎体重)を下げる必要があります。肺炎や肺気腫等の肺疾患合併の場合もあり、喫煙されている方には禁煙を強くお勧めします。
アルカリの状態(アルカローシス)に至る主要な原因は蛋白質摂取不足です。蛋白質摂取量の多い透析患者様、最も代表的な蛋白質であるアルブミン血中濃度の高い透析患者様が長生きされていることが知られています。アルカローシスの場合、まずは蛋白質摂取量増加をお勧めします。高リン(P)血症やP吸着薬内服中の場合は、P吸着薬としてレナジェル又はフォスブロック(一般名:塩酸セベラマー)内服によりP値低下と共に、アルカローシス改善が期待出来ます。塩酸セベラマーは抗動脈硬化作用やカルシウム含有P吸着薬内服に比し良好な生命予後も報告されております。
一方、透析量が不十分な場合血液が酸性になってしまいます。酸性の状態(アシドーシス)が続くと栄養障害や骨障害をもたらし、生命予後も不良となり得ます。クエン酸含有透析液カーボスターは血液透析患者様のアシドーシスを改善させる効果が高いことが知られています。酸性であった場合、まずは透析時間や透析回数の増加、血液流量(QB)増加といった透析量の増加をお勧めします。それが難しい場合やP吸着薬内服中の場合は、鉄含有P吸着薬リオナ(一般名:クエン酸第二鉄)内服により、鉄欠乏や貧血の改善、P値低下と共に、クエン酸によるアシドーシス改善が期待出来ます。
以上より、本院で定期的に実施している血液ガス分析はB.により、1.蛋白質摂取不足の有無の判定、2.透析不足の有無の判定、3.P吸着薬の調整に役立ち、食事内容、透析条件やP吸着薬の見直しに有用です。十分な蛋白質摂取によりアルカローシスを防ぎ、しっかり透析によりアシドーシスを防ぎ、適切なP吸着薬を内服すれば、良好な血液ガス分析結果と良好な生命予後(長生き)につながるでしょう!