第130回 元気で長生き講座【2023年6月号】
~引き続きワクチン接種及びマスク着用を含む感染対策継続をお勧めします~
透析患者における累積の新型コロナウイルス感染者の登録数が、日本透析医会・日本透析医学会・日本腎臓学会、および新型コロナウイルス感染対策合同委員会連名で発表されています1)。2023年5月24日時点の報告によると、累積感染者数は19,939名、死亡者数は858名でした(死亡率4.3%)。東京都では感染者数4,136名、死亡者数158名です(死亡率3.8%)。ワクチンや治療薬の登場により死亡率は以前より低下してきており、思っていたよりも少ない印象を受けたかもしれませんが、ワクチン接種の有無で分けると印象が様変わりします。19,939名の罹患者の内、ワクチン未接種の方は3,291名いらっしゃいましたが、この中で亡くなった方はなんと453名(死亡率13.8%)です。ワクチン未接種の方は全罹患者の16.5%と2割弱に過ぎませんが、全死亡者の52.8%と実に半数以上を占めています。ワクチンが完成する前に亡くなった方もいらっしゃるとは言えワクチン接種者の死亡率が2.4%ですから、明らかにワクチン接種が透析患者様に対しても重症化や死亡の予防に有効と言えます。引き続き本院でも実施しておりますワクチン接種をお勧めします。
医学専門誌のPLos Medicineにて、ベルン大学のグループがスイスの中学校におけるマスク着用効果と空気清浄機使用効果を報告2)しています。スイスにある2つの生徒数1500名と700名の中学校にて、2022年1~3月の間、生徒全員が2~4週間クラス内でマスクを常時着用し、その後1~3週間マスクを着用しない期間を設け、その後クラス内でマスク不着用のまま空気清浄機を2週間使用しました。この間、生徒の唾液とクラスルーム中のエアロゾルを採取し、それぞれの検体中の新型コロナウイルスの量を調べるとともに、それぞれの期間中の感染者数を算出しました。結果は、唾液・エアロゾルともに常時新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)が確認されましたが、マスク着用中にはエアロゾル中のウイルス量が約70%低下、一方、空気清浄機使用時にはエアロゾル中のウイルス量の低下は約40%でした。また、マスクを着用しなかった時と比べ、マスク着用時は新型コロナウイルス感染者が約5分の1に明らかに抑制されていました。空気清浄機の使用中、感染者は減りませんでした。これはある場所の一例に過ぎず、統計上はサンプル数が少ないケースではありますが、結果として空気清浄機の感染予防効果は、ウイルス量を減らす効果はあったが感染を抑制できるほど効果は認められなかった一方、マスクの感染予防効果が明らかに認められました。
5類になったことで、もはやコロナは過去のもの、もしくはもう消えていくと思っている方々がいらっしゃるとしたら、現在の中国の状況を調べてみてください。世界で最初に多くの感染者が出たにも関わらず、現在感染が再拡大しており、中国における感染症対策の権威で新型コロナ対策政府専門家チームのトップを務めた鍾南山氏は5月22日に広東省で開かれたフォーラムにて、現在新型コロナの第2波が押し寄せており、1週間当たりの感染者が6月末には6500万人に達するとの驚くべき見通しを述べています。ヤフーニュース3)にて、昭和大医学部客員教授の二木芳人先生(臨床感染症学)は「米国ではXBB.1.16やXBB.1.9.1が主流に置き換わっていて、東京都の最新のゲノム解析結果(調査期間4月24~30日)でも、それぞれ2割ほどを占めています。ただ、米国では重症化の傾向はみられていない。コロナ禍から3年経ち、感染やワクチンによって免疫のある人が増え、対処法も確立した影響があるでしょう。とはいえ、油断は禁物です。感染症法上の位置付けが5類に移行したことに伴い、厚労省が5月19日に初公表した『定点把握』への評価は〈4月以降の緩やかな増加傾向が続いている〉でした。夏に向かって波が膨らんでいく可能性は否定できず、慎重に状況を見る必要があります」と述べていらっしゃいます。
分類が変わっても、まだ新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は消えていないことを念頭に、引き続きワクチン接種、マスク着用、手洗いや換気などの感染対策継続をお勧めします。
参考文献
1)透析患者における累積の新型コロナウイルス感染者の登録数(2023年5月24日時点:最終報告). 日本透析医学会, 2023
http://www.touseki-ikai.or.jp/htm/03_info/doc/infected_number_20230526.pdf
2)Banholzer N, Zürcher K, Jent P, et al. SARS-CoV-2 transmission with and without mask wearing or air cleaners in schools in Switzerland: A modeling study of epidemiological, environmental, and molecular data.
PLos Medicine 2023; doi.org/10.1371/journal.pmed.1004226
3)https://news.yahoo.co.jp/articles/8db80d42927fc10c5834308146693a523cf206b5