第129回 元気で長生き講座【2023年5月号】
~本院の良好な透析治療結果のご案内と鉄の有用性について【自主機能評価指標(2022年12月末現在)】~
日本透析医会は自主機能評価指標の項目を選定し、自律的に自らの診療内容や医療の質の評価を公開することを勧めており、本院でも選定され令和2年に項目が見直された全ての評価指標項目と*で示したその他の項目についても公表しております。
Ⅲの治療指標は透析治療結果を反映するものです。本院での腎性貧血管理は生命予後の観点からも鉄欠乏のリスクを高める赤血球造血刺激因子製剤(ESA;erythropoiesis stimulating agent)が過剰とならない事も目指しています。鉄飽和率(TSAT;transferrin saturation)20%以上に鉄が充足されていると生命予後良好1)、前向きの二重盲検の無作為介入試験(RCT; Randomized Control Trial)がむずむず脚症候群(RLS;Restless Legs Syndrome)の透析患者で行われ、プラセボ(偽薬)群に対して静注鉄剤投与群で有意に客観的RLSスコア改善2)や近年PIVOTAL研究にて鉄剤の積極的投与群と鉄欠乏になってから鉄補充を行う消極的投与群との比較で、積極的投与群でESA投与量や輸血が有意に少なく、心不全入院、心筋梗塞や全死亡が有意に少なかったと報告3)されています。鉄の値と血を固める作用を持つ血小板数に逆相関が認められ、鉄剤による ESA 減量及び血栓症予防効果が推察されています4)。鉄分の多い食事摂取の推奨や鉄剤の積極的な投与によりヘモグロビン(Hb)平均値11.2(中央値11)g/dLと共に、貯蔵鉄の指標であるフェリチン(ferritin)平均値173(中央値120、検査実施2019年11~12月)ng/mLと以前より上昇しています。沖縄での ESA による脳梗塞や心筋梗塞増加も報告 5)されており、ESA投与量が少ないエリスロポエチン抵抗性指数(ERI;erythropoietin resistance index)低値での生命予後良好が報告6)されています。本院では、上記のHb、TSAT、フェリチン値のみならず赤血球数を示すRBC(Red Blood Cell)及び3つの赤血球恒数(MCV、MCH、MCHC)の一つで鉄欠乏時に低値となる平均赤血球Hb量(MCH;mean cell hemoglobin)を用い、RBC 300~350×104/μL、MCH 30~35 pgを目標とする友杉先生が提唱されたRBC-MCH理論7)による貧血管理を実施8)しており、ESA 投与量が少ない ERI 低値の患者様が多くいらっしゃいます。日本透析医学会の2015年版 慢性腎臓病患者における腎性貧血治療のガイドライン9)に従いHb10~12g/dLを目標値としつつ、同じく生命予後との関連も明らかとなってきております鉄の状態にも引き続き注意していきたいと存じます。
副甲状腺ホルモン(PTH;parathyroid hormone)であるiPTH平均値161.6(中央値127)pg/dLと以前より上昇しておりますが、PTH値と生命予後との関連が低かった報告10)もあり、日本透析医学会の慢性腎臓病に伴う骨・ミネラル代謝異常(CKD-MBD;chronic kidney disease related mineral and bone disorder)の診療ガイドライン 11)に従い、異所性石灰化予防及び生命予後の観点からもリン(P)値、補正カルシウム値(cCa)、PTH値の順に優先して良好な値を目指しております。cCa平均値は全国平均よりも低い8.6(中央値8.6)mg/dL、cCa10 mg/dL以下の割合100%の良好な数値となっております。実際、上記CKD-MBDの診療ガイドラインに「透析患者においては血清Ca濃度がたとえ管理目標値内であってもできるだけ低く保つ方が生命予後を改善する可能性が示唆された」との記載がなされております。血清アルブミン(Alb)値4g/dL未満では補正式でcCaを算出します。若年成人の透析患者でも異所性石灰化を認める者がいるものの異所性石灰化を認めない群はcCa×P積低値も報告12)されおり、「慢性維持透析患者における冠動脈石灰化に及ぼすスクロオキシ水酸化鉄と炭酸ランタンとの無作為化群間比較試験(EPISODE)」で、より厳格なPコントロールが心臓の血管の冠動脈石灰化抑制につながってます。更に同程度のPコントロールで、鉄含有リン吸着薬の方が冠動脈石灰化は抑制されており13)、腎不全ラットの動脈の中膜石灰化が鉄の投与で抑制されていたことも報告14)されており、加えてCKD-MBDの診療ガイドラインにも示されているP 6 mg/dL以下の目標範囲内の方も9割を超えており、本院患者様においては異所性石灰化のリスクが低いことが考えられます。
本院平均透析時間は5時間を超えており7割以上の方が5時間以上の透析、5人にお一人は週18時間以上の長時間透析をお受け頂いております!本院平均spKt/V値は1.85で2009年末のわが国の慢性透析療法の現況にてspKt/V1.8~2の方が最も(次いで2以上の方の)生命予後良好が報告15)されています。
「元気で長生き」を目標に可能な範囲でより良い治療結果が得られるよう皆様と共に今後も歩んでいきたいと考えておりますのでご理解とご協力を宜しくお願い申し上げます。
参考文献
1)Sato M, Hanafusa N, Tsuchiya K, et al. Impact of transferrin saturation on all-cause mortality in patients on maintenance hemodialysis. Blood Purif 2019;48:158–66
2)James A. Sloand, Mark A. Shelly, Andrew Feigin, et al. A double-blind, placebo-controlled trial of intravenous iron dextran therapy in patients with ESRD and restless legs syndrome. Am J Kidney Dis 2004;43(4):663-70
3)Macdougall C Iain, White C, Anker D Stefan, et al. Intravenous Iron in Patients Undergoing Maintenance Hemodialysis. N Engl J Med 2019;380(5):447-58
4)Yessayan L, Yee J, Zasuwa G, et al. Iron repletion is associated with reduction in platelet counts in non-dialysis chronic kidney disease patients independent of erythropoiesis-stimulating agent use: a retrospective cohort study. BMC Nephrology 2014;15:119
5)Iseki K, Nishime K, Uehara H, et al. Increased risk of cardiovascular disease with erythropoietin in chronic dialysis patients. Nephron 1997;76:116
6)Eriguchi R, Taniguchi M, Ninomiya T, et al. Hyporesponsiveness to erythropoiesisstimulating agent as a prognostic factor in Japanese hemodialysis patients: the Q-Cohort study. J Nephrol 2015;28(2):217-25
7)Tomosugi N, Koshino Y. Tips for erythoropoiesis-stimulating agent treatment of renal anemia. Clin Exp Neprol 24:105-6, 2020
8)菅沼 信也, 阿部 達弥, 西澤 喬光. 赤血球数および平均赤血球ヘモグロビン量を用いた血液透析患者の貧血管理. 腎と透析 2020;89(5):876-80
9)日本透析医学会.慢性腎臓病患者における腎性貧血治療のガイドライン.日本透析医学会雑誌 2016;49(2):89-158
10)Fukagawa M, Kido R, Komaba H,et al. Abnormal mineral metabolism and mortality in hemodialysis patients with secondary hyperparathyroidism: evidence from marginal structural models used to adjust for time-dependent confounding. Am J Kidney Dis 2014;63(6):979-87
11)日本透析医学会. 慢性腎臓病に伴う骨・ミネラル代謝異常の診療ガイドライン.日本透析医学会雑誌 2012;45(4):301-56
12)W G Goodman, J Goldin, B D Kuizon, et al. Coronary-artery calcification in young adults with end-stage renal disease who are undergoing dialysis. N Engl J Med 2000;342(20):1478-83
13)Isaka Y, Hamano T, Fujii H, et al. Optimal Phosphate Control Related to Coronary Artery Calcification in Dialysis Patients. J Am Soc Nephrol 2021;32(3):723-35
14)Seto T, Hamada C, Tomino Y. Suppressive effects of iron overloading on vascular calcification in uremic rats. J Nephrol 2014;27(2):135-42
15)中井 滋, 井関 邦敏, 伊丹 儀友, 他. わが国の慢性透析療法の現況(2009年12月31日現在).日本透析医学会雑誌 2011;44(1):1-36