人工透析・糖尿病専門外来 千歳烏山駅北口

腎内科クリニック世田谷
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菅沼院長の元気で長生き講座
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第125回 元気で長生き講座【2022年12月号】

菅沼院長の元気で長生き講座

 

~新型コロナウイルス感染症(COVID-19)第8波が到来しています。引き続き感染予防を行いましょう~

 

患者様にもご紹介したい最近の報告内容をお伝えします。COVID-19に関する情報も多くなっていますが、情報の真偽については、その情報を裏付ける原著論文(所謂エビデンス)があるか否かも大変参考になります。

 

①マスク着用効果

現在、海外ではマスクをもう着けないことがスタンダードになりつつありますが、第107回 元気で長生き講座【2021年5月号】でもご紹介しております通りマスク着用により感染者が確実に減少することを示すデータも存在します。ハーバード大学の研究グループが発表した20221124日のNew England Journal of Medicineオンライン版1によると、マサチューセッツ州の72校区で、マスク着用をした校区と非着用の校区で感染者数を比較したところ、マスク着用を続けることによって15週間の観察期間で感染者数が約30%減っていたことがわかりました。一方、感染流行の時にマスクをしないと学内の感染者が増加していました。このことからコロナの感染流行が予想される時期においては、マスク着用は感染者を減らす効果があると言えます。日本は海外に比べれば、感染者数が少なく、集団免疫が成立しているとは言いがたい状況でもありますので、引き続き、特に会話時や人と会う場面ではマスク着用継続をお勧めします。私自身マスクは身体を守ってくれる車のシートベルトのようなものと考え、出かける時は、不織布マスクを着用しています。引き続き、「手洗い」「3密(密接・密集・密閉)回避」「換気」「マスク着用」を含む感染予防策継続をお勧めします。

 

②世界におけるCOVID-19ワクチンの効果

未だにワクチンに対し否定的な方がいます。しかし、アメリカ疾病対策予防センター(CDC)の発表2によると、12歳以上の人を対象に未接種者、接種済だが追加接種未の人、オミクロン対応二価ワクチン追加接種済の人を比較したところ、12歳以上で二価ワクチン追加接種をした場合、未接種者に比べて、死者数が14.9分の1に減少、感染者数が3.2分の1 に減少していること(図)がわかり二価ワクチン追加接種により特に生存者数が多くなっています。

 

 

又、ワクチン接種によりどのぐらいの命が救われているのか示されたデータもあります。イギリスの感染症の専門誌Lancet Infectious Diseasesに掲載された報告3によると、世界185の国・地域で超過死亡数(例年ある時期の本来想定されている死亡者数より増えた数)、実際にCOVID-19で死亡した数、ワクチン接種率、接種回数などを調べて解析したところ、全国家・全地域にて、ワクチン接種により死亡者が大きく減り、2020128日から2021128日の1年間だけを見ても1980万人もの命が救われたとの推計結果が出ました。

 

アメリカ国内においても、ワクチン接種率の高い10州とワクチン接種率が低い10州を比較したところ、ワクチン接種率が低い州に比べてワクチン接種率が高い州では死亡数も超過死亡数も大きく減少していました4。また、ニュージーランド、オーストラリア、韓国、日本などのワクチン接種率が高い国(70%後半~80%超)ではいずれもCOVID-19死亡者数が低く抑えられていました。

 

又、イギリスの循環器系専門誌Heartに、中高年者でCOVID-19罹患後心血管系疾患の発症リスクが大きく高まり、死亡リスクは約30倍も高くなったとの報告5が出ていますが、韓国のKimらがワクチンの追加接種にてCOVID-19罹患で増加する心筋梗塞や虚血性脳卒中が半減したことを報告6しています。ワクチン接種がCOVID-19後遺症を抑制するか否かに関するこれまでの多くの報告をまとめた系統的レビューも発表7され、COVID-19後遺症発症リスクをワクチンが減少させる可能性も示唆される結果となっています。

 

③透析患者様におけるワクチン接種の効果

ロンドンでのアジア人を含む様々な人種の1300人以上のCOVID-19罹患の透析患者を対象とした多施設観察研究にて、年齢や合併症などが調整された後も、二回接種後の患者は未接種の患者に比べ、入院リスクが75%も低く、死亡は88%も低かったことが報告8されています。

先月岡山(今年美容外来をスタートさせた実家の長野県飯田市の菅沼病院の前身菅沼医院初代院長の祖父菅沼 博は岡山大学医学部出身です)で開催された第28回腹膜透析医学会(本院からはオーバーナイト(深夜)透析実施によりフルタイム勤務を実現している腹膜透析(PD)+血液透析(HD)併用療法患者様を報告させて頂きました)でも、在宅透析であるPDにおけるCOVID-19の低い罹患率が報告されていますが、COVID-19罹患者で複数認めた死亡例はいずれもワクチン未接種患者で生存例はいずれもワクチン接種患者であったことも某透析病院より報告されていました。死亡リスクの高い基礎疾患を有する皆様にとって特にワクチン接種は重要と考えられます。私も先月5回目のワクチン接種を終え元気です!

 

米国での透析患者におけるオミクロン株流行期のCOVID-19と抗体価とワクチン接種回数の関連について、オミクロン株によるCOVID-19罹患は、ワクチン3回以上接種の患者でそのリスクが低いことが報告9されました。透析患者様においては2回目までは抗体価の上昇が少ないものの、3回目以降で抗体価が十分上昇することが報告されており、ワクチン接種を重ねて行うことが重要と考えられます。

 

④一度かかったからもう予防は必要ない?は間違い

オミクロン株流行後、複数回感染する人が出現しています。しかし、中高年で複数回感染する人は回復後もいろいろな合併症が起きることがわかっています。アメリカの疫学研究グループがNature Medicineに発表した内容10によると、中高年が大部分のアメリカ退役軍人にて、単回感染者、複数回感染者、未感染者について比較調査した結果、複数回感染すると単回感染と比べて死亡率が約2倍、入院リスクが約3倍に増加し、感染回数が増加するごとに入院リスクやその他の疾患リスクが大きく増加していました。ただし、単回感染者にくらべ複数回感染した人の数は1割程でしたが、一度感染すれば免疫ができるから、その後は予防する必要ない、は危険な意見かと思います。COVID-19罹患後であっても、感染予防を続けて頂くこともお勧めします。

 

⑤在宅透析におけるCOVID-19に対する有用性

第120回 元気で長生き講座【2022年7月号】でも

在宅透析にてCOVID-19罹患が少ないことを紹介しておりますが、米国での38万人もの維持透析患者を対象とした研究でも、腹膜透析もしくは在宅血液透析実施中の在宅透析患者は、施設血液透析患者に比べ、COVID-19の診断、入院、死亡の発生率いずれも少ないことが報告11されました(図)。在宅透析を希望される方は是非ご相談下さい。

 

 

【本院のCOVID-19治療方針】

 

COVID-19に罹患された場合、下記の内服治療をお勧めしています。肺炎で呼吸器症状が悪化し酸素投与が必要な場合、ステロイド「デキサメタゾン」が有効ですが外来治療は難しいため、早期発見早期治療により悪化をしっかりと予防しましょう。

 

1.モルヌピラビル(ラゲブリオカプセル

 

新型コロナウイルスのRNAに取り込まれることにより、ウイルスの増殖を阻害します。COVID-19の症状が現れてから早期に使用が開始され、通常成人の場合14カプセル、125日間計40カプセル服用します。食事の有無にかかわらず飲むことができ、コップ1杯程度の水またはぬるま湯で飲みます。体調がよくなったと自己判断して使用を中止したり、量を加減したりすると病気が悪化することがあります。指示どおりに飲み続けることが重要です。COVID-19診断確定時に発注しますので、到着するまでは下記のタミフルによる超早期治療開始後、中和抗体点滴治療も行っている酸素ステーションご紹介も考慮致します。

 

2.オセルタミビル(タミフル

 

インフルエンザ治療薬ですがCOVID-19への効果も報告されており、第102回元気で長生き講座【2020年11月号】をご参照下さい。発熱(目安37.5℃以上)時直ちに本院の患者様におかれましては予めお渡ししておりますタミフル1C内服及び本院へご来院前にご連絡をお願い致します。予防投与をご希望の患者様はお申し出下さい。今冬はインフルエンザとの同時流行も起きてきており、発熱時診断前の予防投与は保険が適用され、診断後の治療としてはインフルエンザで保険が適用され、COVID-19治療薬としては2C目以降自費となりますが透析患者様の場合治療は5日毎1Cの内服で済み、副作用もほとんどありません。

 

3.ファモチジン(ガスターD

 

米国におけるCOVID-19の入院患者84名にて24時間以内にファモチジンが使用され、死亡又は気管挿管の発生低下と関連した12)との報告があり、又、高用量の経口ファモチジンを内服した患者10名全てにおいて、開始24時間以内にCOVID-19の各種症状スコアの著しい改善13)が報告されています。市販薬としても発売されている安全性の高い胃薬であり投与をご希望の患者様はお申し出下さい。プロトンポンプ阻害薬(PPI)からの変更で透析患者様の生命予後と関連するMg(マグネシウム)値の上昇を日本透析医学会で報告しており、透析患者様におかれましては、10mg/日のみの内服で済みます。

 

第104回元気で長生き講座【2021年2月号】で紹介した慢性膵炎の治療薬カモスタットは第3相試験で有効性が示されなかったため、新薬登場もありCOVID-19への使用は中止しました。凝固異常を示すDダイマー高値が持続する方におかれましては、COVID-19にてしばしば報告されている血栓症が危惧され、透析患者様への抗凝固薬ワーファリンは原則禁忌14とされており、早期開始によりCOVID-19重症化や死亡の減少が報告15されている抗血小板薬アスピリンや抗血栓性の高い血液浄化器16使用を考慮します。

 

<参考文献>

1)Tori L Cowger, Eleanor J Murray, Jaylen Clarke, et al. Lifting Universal Masking in Schools – Covid-19 Incidence among Students and Staff. N Engl J Med. 2022;387(21):1935-1946.

2)CDC COVID-19 Response, Epidemiology Task Force. Rates of COVID-19 Cases or Deaths by Age Group and Updated (Bivalent) Booster Status. 2022 Nov23.

3)Oliver J Watson, Gregory Barnsley, Jaspreet Toor, et al. Global impact of the first year of COVID-19 vaccination: a mathematical modelling study. Lancet Infect Dis. 2022;22(9):1293-1302.

4)Alyssa Bilinski, Kathryn Thompson, Ezekiel Emanuel. COVID-19 and Excess All-Cause Mortality in the US and 20 Comparison Countries, June 2021-March 2022. JAMA. 2022 Nov 18. doi: 10.1001.

5)Zahra Raisi-Estabragh, Jackie Cooper, Ahmed Salih, et al. Cardiovascular disease and mortality sequelae of COVID-19 in the UK Biobank. Heart. 2022 Oct 24;heartjnl-2022-321492. doi: 10.1136.

6)Young-Eun Kim, Kyungmin Huh, Young-Joon Park, et al. Association Between Vaccination and Acute Myocardial Infarction and Ischemic Stroke After COVID-19 Infection. JAMA. 2022;328(9):887-889.

7)Kin Israel Notarte, Jesus Alfonso Catahay, Jacqueline Veronica Velascoc, et al.

Impact of COVID-19 vaccination on the risk of developing long-COVID and on existing long-COVID symptoms: A systematic review. EClinicalMedicine. 2022;53:101624.

8)Damien R Ashby, Ben Caplin, Richard W Corbett, et al. Severity of COVID-19 after Vaccination among Hemodialysis Patients: An Observational Cohort Study. Clin J Am Soc Nephrol. 2022;17(6):843-850.

9)Maria E Montez-Rath, Pablo Garcia, Jialin Han, et al. SARS-CoV-2 infection during the Omicron surge among patients receiving dialysis: the role of circulating receptor-binding domain antibodies and vaccine doses. medRxiv. 2022 ;2022.03.15.22272426. doi: 10.1101/2022.03.15.22272426.

10)Benjamin Bowe, Yan Xie, Ziyad Al-Aly. Acute and postacute sequelae associated with SARS-CoV-2 reinfection. Nat Med. 2022;28(11):2398-2405.

11)Eric D. Weinhandl, Jiannong Liu, David T. Gilbertson, et al. Open Access Associations of COVID-19 Outcomes with Dialysis Modalities and Settings. CJASN 2022;17 (10):1526-1534.

12)Freedberg DE, Conigliaro J, Wang TC, et al. Famotidine Use is Associated with Improved Clinical Outcomes in Hospitalized COVID-19 Patients: A Propensity Score Matched Retrospective Cohort Study. Gastroenterology 2020:159(3):1129-31

13)Janowitz T, Gablenz E, Pattinson D, et al. Famotidine use and quantitative symptom tracking for COVID-19 in non-hospitalized patients: a case series. Gut 2020:doi.org/10.1136/gutjnl-2020-321852

14)平方秀樹,新田孝作,友雅司,他.血液透析患者にお ける心血管合併症の評価と治療に関するガイドライ ン.透析会誌2011;44:337‒8.

15)Chow, Jonathan H, Khanna, Ashish K, et al. Aspirin Use Is Associated With Decreased Mechanical Ventilation, Intensive Care Unit Admission, and In-Hospital Mortality in Hospitalized Patients With Coronavirus Disease 2019. nesthesia & Analgesia 2021;132(4):930-41.

16)髙義尚, 森石みさき, 下方実樹, 他.NVF-21Hを用いることで、ヘパリン減量に奏効した4例.腎と透析別冊 HDF療法’18 2018;85:93-95.