第113回 元気で長生き講座【2021年11月号】
~2020年12月末現在自主機能評価指標~
本院も施設会員となっております日本透析医会は自主機能評価指標の項目を選定し、自律的に自らの診療内容や医療の質の評価を公開することを勧めており、本院でも選定された全ての評価指標項目(に加えて*独自の項目)を公表しております。
Ⅲの治療指標は透析治療結果を反映するものです。
本院での腎性貧血管理は生命予後の観点からも鉄欠乏のリスクを高める赤血球造血刺激因子製剤(ESA)が過剰とならない事も目指しており、トランスフェリン飽和度(TSAT:鉄飽和率:Fe÷TIBC×100%で算出されます)20%以上に鉄が充足されていると生命予後良好(Sato M, Hanafusa N, Tsuchiya K, et al: Impact of transferrin saturation on all-cause mortality in patients on maintenance hemodialysis. Blood Purif 48: 158–66, 2019)や近年PIVOTAL研究にて鉄剤の積極的投与群と鉄欠乏にいたってから鉄補充を行う消極的投与群との比較で、積極的投与群でESA投与量や輸血が有意に少なく、心不全入院、心筋梗塞や全死亡が有意に少なかった事が報告(Iain C Macdougall, Claire White, Stefan D Anker, et al: Intravenous Ironin Patients Undergoing Maintenance Hemodialysis. N Engl J Med; 380(5): 447-58, 2019 DOI:10.1056/NEJMoa1810742)されており、鉄剤の積極的な投与によりヘモグロビン(Hb)平均値11.0(中央値10.8)g/dLと共に、貯蔵鉄の指標であるフェリチン(ferritin)平均値124.7(中央値69.2、検査実施2019年11~12月)ng/mLと以前より上昇しており、ESA投与量が少ない方やESA(U/週)/Hb(g/dL)/DW(kg)にて算出されるエリスロポエチン抵抗性指数(ERI)9.44未満で生命予後良好が報告(Rieko Eriguchi, Masatomo Taniguchi, Toshiharu Ninomiya, et al: Hyporesponsiveness to erythropoiesis-stimulating agent as a prognostic factor in Japanese hemodialysis patients: the Q-Cohort study. J Nephrol. 28(2): 217-25, 2015 DOI:10.1007/s40620-014-0121-9)されており、ESA投与量が少ないERI低値の患者様が多くいらっしゃいます。日本透析医学会の2015年版慢性腎臓病患者における腎性貧血治療のガイドライン(透析会誌49(2):89-158,2016)に従いHb10~12g/dLを目標値としつつ、同じく生命予後との関連も明らかとなってきております鉄の状態にも引き続き注意していきたいと存じます。
副甲状腺ホルモン(iPTH)平均値157.5(中央値142)pg/dLと以前より上昇しておりますが、PTH値と生命予後との関連が低かった報告(Fukagawa M, et al: Am J Kidney Dis 63(6): 979-87, 2014)もあり、日本透析医学会の慢性腎臓病に伴う骨・ミネラル代謝異常(CKD-MBD)の診療ガイドライン(透析会誌45(4):301-56,2012)に従い、異所性石灰化予防及び生命予後の観点からもリン(P)値、補正カルシウム値(cCa)、PTH値の順に優先して良好な値を目指しており、cCa平均値は9を超えている全国平均よりも低い8.8(中央値8.8)mg/dL、cCa10mg/dL以下の割合98.7%の良好な数値となっております。実際、上記CKD-MBDの診療ガイドラインに「透析患者においては血清Ca濃度がたとえ管理目標値内であってもできるだけ低く保つ方が生命予後を改善する可能性が示唆された」との記載がなされております。血清アルブミン(Alb)値が低い場合補正式でcCaを算出します。
本院平均透析時間は5時間を超えており7割を超える方が5時間以上の透析、5人にお一人は週18時間以上の長時間透析をお受け頂いております。透析量の指標であるspKt/V1.2未満の一部の方は透析導入間もない方らで、本院平均spKt/V値は1.88で2009年末のわが国の慢性透析療法の現況にてspKt/V1.8~2の方が最も(次いで2以上の方の)生命予後良好が報告されています。
「元気で長生き」を目標に可能な範囲でより良い治療結果が得られるよう皆様と共に今後も歩んでいきたいと考えておりますのでご理解とご協力を宜しくお願い申し上げます。