第89回 元気で長生き講座【2019年9月号】
~しっかり透析とオンラインHDF~
日本透析医会誌(鈴木一裕.しっかり透析とオンラインHDF.日本透析医会雑誌.2018;33:556-7.)に掲載された昨年の大阪透析医会講演会での医療法人援腎会すずきクリニック 院長 鈴木一裕先生ご講演内容が大変素晴らしく、本院の方針とも一致しており、皆様に一部紹介させていただきます。Kt/Vは透析量を示し高値の患者様における生命予後良好が報告されております。
1.しっかり透析
本院では、透析時間の延長と高血流、オンラインHDFを「しっかり透析」と位置づけて透析診療を行ってきた。目標とする透析時間は5時間以上であり、血流量(以下QB)は300mL/min以上としている。透析量を増加させることで貧血やミネラル代謝などのデータを改善させているが、高血圧の是正についての効果も優れている。本院に通院し血液透析を受けていた52名に対して、24時間血圧計を用いて家庭血圧の測定を行い、透析時間、QB、Kt/Vを群分けして、収縮期血圧と降圧薬の服用数について検討。透析時間別の収縮期平均血圧では、4時間以下群に比べ24時間、及び昼間にて有意に5時間群の収縮期平均血圧が低く、降圧薬内服数でも5時間群が優れている結果であった。高血流になるほど収縮期平均血圧は低く、Kt/Vが高くなると収縮期平均血圧は有意に低くなっていた。降圧薬内服数では、Kt/V低値群で多剤内服患者数の割合が高く、内服無しの患者が少なかった。30分の時間延長でも血圧を改善させていた。QBも上げると高血圧は改善した。長時間透析が優れていることは知られているが、5時間程度の透析時間でも透析量を上げることで高血圧が改善する可能性があると思われた。
2.リン(以下P)の出納を考える
透析患者に適切だと考えられている蛋白摂取量は、標準体重1kg当たり1~1.2gと考えられている。60kgの患者で1g/kgの蛋白摂取量とすると、1日60g、1週間で420gの蛋白摂取量となる。蛋白1gに含まれるPは約15mgであり、1週間で420×15=6300mgのPが摂取される。Pの吸収率は60~80%なので、6300mgの70%である4410mgのPが1週間で摂取されると仮定する。4hr QB250mL/minの透析条件では、1回1000mg、週3回の透析で3000mgのPが除去される。4410-3000=1410mgのPが体内に蓄積する。これに対し、5hr QB400mL/minの透析条件では、1回1400mg、週3回の透析で4200mgのPが除去される。4410-4200=210mgであり、Pの体内へ蓄積する量は大幅に少なくなる。4hr QB250mL/minの透析条件で血清P値が正常な患者では、週当たりのP摂取量は3000mg÷0.7=4286mgとなる。蛋白摂取量に換算すると、1週間の蛋白摂取量が286gとなり、1日40g。これは60kgの患者では体重1kg当たり0.67gのP摂取量となり、適切と考えられる蛋白摂取量よりかなり少なくなってくる。4時間透析でP吸着薬を内服せずに血清P値が正常な患者は、自己管理がよいのではなく食べられていない可能性があるということを考慮すべきである。
3.オンラインHDFの臨床効果
オンラインHDF療法の臨床効果として、川西らは、①除去効率の増加、②透析低血圧の防止、③生命予後の向上をあげている。最近の検討では、高置換流量のオンラインHDFがHDよりも生命予後がよいという論文が散見される。しかし、オンラインHDFを行えばHDよりも生命予後がよいというエビデンスはないと考えている。オンラインHDFは低分子蛋白を積極的に除去する事ができて、その効果により様々な愁訴が改善できる治療法である。
4.高血流オンラインHDF
前希釈オンラインは、ヘモダイアフィルタ内に血液が流入する前に希釈されるため、溶質濃度が低下し、拡散を用いた溶質クリアランスが低下する。また、透析液の一部を補液に使用するために、総透析液流量を一定にすれば透析液流量は減少して拡散効率は低下し、小分子量物質の除去能は低下してくる。そのため、前希釈オンラインHDFでは通常のHD以上にQBを増加させる意義があり、可能な症例は高血流で行うべきである。