第81回 元気で長生き講座(2018年12月号)
~「元気で長生き」のためにも「しっかり透析」にて低栄養や異所性石灰化が懸念される「代謝性アシドーシス」是正をお勧め致します~
この度、由緒ある日本透析医学会(JSDT)オフィシャルジャーナルに「クエン酸第二鉄の血液透析患者における有用性」と題した菅沼の原著論文(透析会誌51巻10号:p607~615,2018)を発表致しました。筆頭著者としての透析会誌における掲載は2回目で、開業後は初めてです。共著者に名を連ねる臨床工学部の皆様初め本院スタッフの多大なる協力に深く感謝致します。下記論文〈要旨〉に登場する「代謝性アシドーシス」について紹介します。
腎機能の低下、廃絶に伴い、多くの透析患者の皆様が代謝性アシドーシスを来すため、透析療法により、水(体液量),カリウム(K)やリン(P)等の電解質の補正とともに代謝性アシドーシスの補正が行われます。本院では、開業時よりセントラル透析液供給システム(central dialysis fluid delivery system: CDDS)にて代謝性アシドーシス補正効果の高いクエン酸含有無酢酸重炭酸透析液,製品名:カーボスター®・P透析剤(Carbostar®:CAB)を用いています。
代謝性アシドーシスにて、蛋白異化に伴う低栄養や異所性石灰化が懸念されます。透析前血清重炭酸濃度が低い(=代謝性アシドーシス)ほど、約1.7 万人の血液透析患者を対象としたDOPPS(dialysis outcomes and practice patterns study)の解析やJSDT年末調査「わが国の慢性透析療法の現況」結果にてあらゆる原因にて死亡に至る全死亡のリスクが高いこと(生命予後不良)や、国内からも冠動脈石灰化の程度が強いことが報告されています。さらに、低い透析前血清重炭酸濃度は全死亡のみならず,心血管死および感染症関連死のリスクが高いことも報告されています。従って代謝性アシドーシスを適切に補正することは重要であると考えられます。透析治療の際に、アルカリ化剤が補充されることにより、代謝性アシドーシスの是正が行われています。従ってまずは充分な透析を行うことが代謝性アシドーシス是正のうえで重要となります。本院では、通常週中日(水曜日もしくは木曜日)の透析前採血にて院内血液ガス分析を実施し呼吸状態と共に血清重炭酸濃度を確認し、代謝性アシドーシス是正状況を定期的に評価しております。本院では以上の事からもCABを用いた長時間透析を含む「しっかり透析」を引き続きお勧め致します!
〈要旨〉
【目的】本院では代謝性アシドーシス補正効果の高いクエン酸含有無酢酸透析液を用いているが,一部の患者でアシドーシス補正が十分でない.そこで,血清重炭酸濃度上昇作用を有するリン吸着薬クエン酸第二鉄製剤(FC)の影響を後ろ向きに調査した.
【対象と方法】本院通院外来維持透析患者で既存薬からFC 変更または追加した72 名を対象に,FC投与開始前,投与3か月後のCKD‒MBD,貧血指標と週中日の透析前血清重炭酸濃度を比較した.
【結果】透析前重炭酸濃度は,全例ではFC投与後変化はなかったが,22 mEq/L 未満の患者30 例では有意に上昇した.FC 投与に伴いFC 由来の鉄が吸収され,TSAT 20%未満かつ血清フェリチン値100 ng/mL 未満の絶対的鉄欠乏の患者が著減し,ESA 投与量が有意に減少した.
【結語】FC はリン吸着および鉄補充に伴う貧血改善作用に加え代謝性アシドーシス補正作用を有し,特に異所性石灰化等のリスクとなる代謝性アシドーシス患者において有用なリン吸着薬になり得る.