第77回 元気で長生き講座(2018年8月号 )
~心房細動に対する低侵襲完全内視鏡下左心耳切除術とカリウム(K)摂取について~
日本メドトロニック株式会社発行の冊子「心房細動って何ですか?」を配布させて頂きました。心房細動の治療法「脳梗塞の予防」にて、「最近では、心臓にある「左心耳」と呼ばれる部位を切除することで、血栓を出来にくくする治療も行われています」と記載がなされており、「左心耳切除術」が紹介されています。東京女子医科大学心臓外科で弁膜症手術をお受けになった本院長期慢性心房細動患者様が、弁膜症手術と同時に左心耳切除術をお受けになっておられます。日本の心臓血管外科のトップランナーのおひとりで、米国留学時に師事した心臓・胸部外科手術のパイオニアRandall K. Wolf医師の「ウルフ・ミニメイズ法」に独自の改良を加えた「WOLF-OHTSUKA法」が心房細動に対する低侵襲な最新外科治療として高く評価されており(医師・病院と患者をつなぐ医療検索サイト|メディカルノートより)、2014年に神戸で開催された第59回日本透析医学会学術集会・総会にて「内視鏡下左心耳切除術:非弁膜性慢性心房細動による脳梗塞予防のための低侵襲心臓外科治療法」(演題番号 : O-0083)も報告されておられる東京都立多摩総合医療センター心臓血管外科大塚俊哉先生が「低侵襲完全内視鏡下左心耳切除術」を実施されておられ、これまでに本院外来維持血液透析患者様計6名の方がお受けになっておられます。大塚先生の左心耳切除術をお受けになったときの6名の皆様の平均年齢は70.3歳と高く、平均透析歴も16年7ヶ月と長く、80歳を越えていてお受けになった方や透析歴40年を越えていてお受けになった方もいらして、平均在院日数も約2週間と比較的短く、10日で退院された方もいらして、開胸と異なり完全内視鏡下の侵襲の少ない手術に起因すると考えます。心房細動患者様に通常適用される抗凝固薬が透析患者様では異所性石灰化や出血のリスクが高まるため、弁置換術後等の場合を除き、原則禁忌とされており、術後に脳梗塞が生じにくくなり、抗凝固薬が中止出来ることが誠に素晴らしいと存じます。2018年7月末現在6名の皆様の術後平均経過観察期間1年7ヶ月で、ご高齢、長期透析歴並びに心房細動を起こされていても全員脳出血、脳梗塞いずれの脳卒中の発症は皆無で、全員ご存命です。左心耳切除術は、発作性心房細動や持続期間5年未満の慢性心房細動に対する主流の治療法であるアブレーション治療と併用で実施頂ける利点もございます。カテーテルアブレーション治療実施に際しては一時的な抗凝固薬内服が必要となります。アブレーション治療後も透析患者様におかれましては、心房細動の再発が多いのですが、例え再発したとしても、左心耳切除術後は脳卒中リスクが低いことは大きなメリットと考えます。
心房細動予防に関連し、冊子の最後の頁に「カリウム(K)の取り過ぎに注意」とありますが、本院では在宅での腹膜透析(PD)実施に加え、在宅血液透析(HHD)による頻回透析、長時間透析、高血液流量透析により、全国平均より30%以上最も一般的な透析量の指標であるspKt/Vが高値で、透析量が多いため、むしろK値が低くなっている方が多く、高K血症のみならず低K血症も心房細動を含む不整脈のリスクとなる為、二日空き透析前K値は5~5.5mEq/L目標にK(果物や生野菜等)を摂取頂ければ幸いに存じます。