第53回 元気で長生き講座(2016年4月号)
血液流量(QB)300mL/min以上の高血流透析には、以下のような誤解や根拠のない迷信があるように思われます。
1.日本は低血流、海外は高血流、だから日本は海外より生命予後良好なのでは?
2.長時間透析では特に低血流とすべきでは?
3.体重あたりのQB高値生命予後不良が報告されており、高血流透析は生命予後不良では?
4.血圧低下をもたらすのでは?
5.実血流としては取れていないのでは?
6.QBを透析液流量(QD)の1/2以上としても無駄では?
7.効率よりも栄養が大事な高齢者は適応外では?
8.心臓への負荷を生じるのでは?
9.小分子除去に優れていても透析アミロイドーシス原因蛋白β2MGのような中分子除去には無効では?
10.バスキュラーアクセス(VA)不全をもたらすのでは?
【考察】
1.DOPPS研究にて国内外共より高血流程生命予後良好が示されています。
2.DOPPS研究にて透析時間が長い程透析効率を示すKt/V高値でより生命予後良好をSaranRらが報告(KidneyInt.2006;69(7):1222-8.)しています。
3.低体重透析患者は生命予後不良であり、その影響による結果であることが考えられ、QBそのものは高い程生命予後良好が示されています。
4.米国のWisconsin医科大学のTrivediHSらが、透析終了前の1時間で30分毎にQBを200又は400mL/minに変更し血圧を評価し、低血流より高血流の方がむしろ血圧が有意に高かった事を報告(HemodialysisInternational. 2007; 11(4): 424-9.)しています。
5.透析モニタHD02による実血流測定の結果、14~15(16)ゲージ(G)針を用いた場合に300mL/min以上の実血流を多く確認しております。
6.QD500mL/min固定であってもQB310mL/min以上の方が、QB300mL/min以下よりもKt/Vが高い傾向(腎と透析2013;75ハイパフォーマンスメンブレン’13:40-3.)を認めました。
7.2015年末本院75~90歳におけるドライウエイト(DW)54.4、透析時間4.45、QB293、Kt/V2.05、筋肉量の指標%CGR121.5と全国平均(DW48.3、透析時間3.74hr、QB180mL/min、Kt/V1.34、%CGR95.4)より高値です。
8.福島の援腎会すずきクリニックの鈴木らが、低血流(200mL/min)と高血流(360~400mL/min)の比較で心臓からの拍出量に有意差は認められないと昨年報告(透析会誌2015;48:239-42.)しました。
9.15G針を用いたQD500mL/min固定のオンラインHDFにてQB250~450mL/minまで50mL/minずつの変化にて、小分子のみならずβ2MG除去率もQB高値ほど有意に上昇したことが昨年MaduellFらが報告(Nefrologia.2015;35(1):50-7.)しました。
10.驚くべきことにQB312mL/min未満でVA不全が有意に特に多く、QB約390mL/minまではVA不全とQBに関連が認められないと昨年PoncePらが報告(HemodialysisInternational.2015;19:314-22.)しました。
さらには平均QB400mL/minの名古屋の城北クリニックでの良好な生命予後も本年報告(透析会誌2016;49:47-52.)されました。栄養状態と生命予後との関連は明らかであり、食事制限緩和が可能な透析量増加の方法として、時間と回数増加に勝るものはないと考えられますが,高血流透析も考慮されるべきでしょう。
【結語】
最新の報告を含む以上より利点の多い高血流透析は、誤解や根拠のない迷信に惑わされることなく、より多く実施されることが望まれます!